第64話 依頼 ※マルクス視点

 マルクスはその頃トライン街南にある森で依頼を受けていた。


――――――――――――――――――――


【C.ゴブリンの集落調査】


募集人数:Cランク以上のパーティーもしくはBランク冒険者

報酬:銀貨8枚

内容:トライン街南にある森にゴブリンの集落ができたと報告あり。現状の確認と破壊できるのであれば破壊をする。(破壊時金貨+3枚)

時間:3日以内


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 冒険者に優しい森のため、動物も多く今日も清々しい風が吹いていた。


「そろそろ聞いてたところだ……なんかおかしいぞ」


 依頼時に報告されていた場所まで行くと、確かにゴブリンが住んで居たのか、葉や木で出来た簡易的な小屋があった。


 小屋へ近づくと所々に血痕が付いていた。明らかに何か異常があったことは長年の経験ですぐにわかる。


「何者かに襲われた? いや、それにしても--」


「グァー!!」


 その時森が振動するかのように獰猛な魔物の雄叫び声が聞こえた。


 久しぶりに強い魔物の威圧を感じ身震いした。それでも俺は原因を探って情報を持ち帰る必要がある。


 俺には元Aランクで手に入れた【鉄槌のマルクス】という名があるからだ。





「早く逃げろ!」


「嫌よ! 私達パーティーでしょ!」


「俺達Cランクじゃどうしようも出来ない。 カレンも震えて動けなくなってるから連れてくんだ」


「嫌よ! 私達も一緒に帰るんだから……ウィンドカッター」


 ローブをまとった女性が呪文を唱えると、空気の刃が魔物を切りつけた。


 魔物の遠吠えは森の中で響いていた。


 魔物に魔法は当たったもののダメージは少ない。ただ単に注意が魔法使いに向いただけだ。


「カレン逃げろ!」


「あっ……」


 目の間には魔物の爪が横切った。その瞬間、何か金属に当たる音と魔物の叫び声が響いた。


「大丈夫か?」


「マルクスさん?」


 なんとか間に合ったようだ。盾とハンマーを持った変わったスタイルが俺の戦い方だ。


「お前は早く仲間を連れてギルドに報告してこい!」


「でも……」


「お前らがいても邪魔なだけだ! おい、お前は仲間抱えてギルドに行け。あとはあいつがどうにかしてくれる」


 俺はなぜか出血で倒れている冒険者を見てケントの姿が浮かんだ。


 あいつなら大丈夫だとどこかで思っていた。


「わかりました! マルクスさんすぐに増援呼んできます」


 怪我人を引き連れ四人はギルドに戻って行った。


「グァー!」


 魔物の威嚇は威圧を放って森を振動させた。


「お前の相手は俺だー!」


 魔物は立ち去った冒険者に飛びかかろうとするが俺は見逃さなかった。


 透かさず間に入りハンマーを腹部に打ち込んだ。


 その衝撃に魔物は2m程度は飛んだだろう。


「ちゃんとリハビリしておいて良かったぜ。 なんでバイオレンスベアーがここにいるんだ?」


 俺は以前バイオレンスベアーを一度討伐した経験があった。


 流石にその時は即時パーティーで討伐したが今は一人だ。


「とりあえず時間を稼ぎながら逃げるか」


 俺は持ち前のヘイトを稼ぎながらバイオレンスベアーを引きつけることにした。





「はぁー、ここまで撒けば大丈夫か」


 俺は木の裏に隠れた。バイオレンスベアーは興奮しており、においで俺を探せずキョロキョロとしている。


「それにしてもバイオレンスベアーってあんなに弱かったか……?」


 初めてバイオレンスベアーを討伐した時はパーティーでギリギリだった。


 災害級でもここまで弱くはなかった。


「グァー!!」


 バイオレンスベアーは雄叫びをあげるとトライン街の方へ走っていった。


「おらー! クソ熊こっちだー!」


 スキルを発動させるとバイオレンスベアーは振り返った。

 

 俺のスキルは【剣士】だがアタッカーではなくタンク寄りのスキルが使える。


 それが今やった叫ぶことで注意を向けやすくするスキルの一つだ。


 その後も数時間程度逃げ回りながら注意を引いた。しかし、急に雄叫びとともに暴走し周りの木をなぎ倒すのだ。


「おい、こっちだ!」


 気づいたら木はほとんど倒れ、ヘイトを集めようとするが反応しない。


 普通ならスキルの効果でヘイトが向くはずだが明らかに様子がおかしい。


 何かに取り憑かれたようにトライン街へ走っていった。


「おい、そっちはまだ行くんじゃねー!」


 急いで回り込み盾で防ぐが、さっきよりも急に力が強くなっていた。まるで何者かに操られて強制的に力が出されているようだ。


「おいおい、これじゃあもたないぜ」


 さっきまで耐えていた腕も痺れ、衝撃に少しずつ力が抜けてきていた。


「マルクスさん!」


 その声は普段から聞き慣れた二人の声だった。しかし、その声は今は聞きたくない。


「ケント、ラルフなんできたんだ!」


 声の持ち主は一緒に住んでるケントとラルフだった。ただどこを見ても二人の姿は見えなかった。


「俺達家族じゃないですか!」


「今はそんな余裕はねえ。 はやく逃げろ」


「少しだけ時間をください」


「わかった!」


 何をやるのかは分からなかった。だけどこんな時にでも家族と言い切る二人にマルクスは答えようと残ってる力を振り絞った。


「熊やろー! アホグマ! クソグマ! クマクマクマ!」

 

「ふっ!」


 俺の言葉を聞いてケントはどこかで吹き出していた。

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