第63話 重症患者

 今日も治療室でプラナスのマッサージをしている。


 キーランドのリハビリを開始して約二週間が経過した。途中まさかの足を腫らし問い詰めると筋トレのやり過ぎだった。


 俺は忘れていたが冒険者は脳筋の集まりだということを……。やはりそこは異世界のテンプレートなんだろう。


「ほんと冒険者って話を聞かないですね」


「なにかあったの?」


「キーランドさんがまた筋トレのやり過ぎで、腫れてはいないものの足を痛めてるんですよ」


「脳筋だからね」


「マルクスさんが脳筋じゃなくて良かったです」


「あの人もかなりの脳筋よ? むしろケントくんが脳筋にならないか心配だわ」


 プラナスが言うにはマルクスも脳筋らしい。気づかなかったのはリハビリ最中は基本的に一緒に居たからだろう。


「それでキーランドさんは大丈夫なの?」


「今は運動控えてもらってるので大丈夫です。また勝手に運動を増やさなければ……」


「リハビリ始めてから妙に元気になり出したからちょっと心配だったわ」


 いつも顔を合わしているプラナスだからこそ少しの変化が気になるのだろう。


 そんな話をしているとギルド内が騒がしくなっていた。


「プラナスさん至急戻ってください」


 ギルド職員がプラナスを呼びに治療室の扉を開けた。


「ケントくんまたよろしくね」


 その顔は少し焦っておりプラナスは何か感じたのであろう。


 プラナスは治療室から出てもギルド内は騒ついていた。


 気になり近くにいた冒険者に声をかけた。


「何かあったんですか?」


「ああ、治療室の子ども先生か」


 気づいたら治療室の子供先生と呼ばれていた。まだ利用する人は増えていないが、いつの間にか存在自体は知られている。


「魔物が森に大量に出現して今その対応に追われているんだ」


「魔物ってそんなに多いんですか?」


「数が多くて数えられないらしいが今は高ランク冒険者が対処に当たっているらしいぞ」


「誰か助けてくれ!」


 扉が勢いよく開いたと同時に血のにおい広がってきた。


 そこにはパーティーの仲間なのか血だらけの人を背負っていた。


「どうしたんですか?」


「バイオレンスベアーに仲間がやられたんだ」


「バイオレンスベアーだって!」


 冒険者のその声にギルド内はさらにざわついた。


 バイオレンスベアーは災害級の魔物と言われている。一体で村や小さな町程度であれば破壊する能力があると言われている。


 ちなみに魔物にもランクが存在している。災害級はAランクが所属するパーティーじゃないと対応できないレベルだ。


「今すぐマリリンに報告。他のものは治療院および教会に連絡してください」


 プラナスの一声でギルド内は動き出した。


「ケントくん治療院のポーションを全部持ってきてください」


 俺は言われた通りに回復ポーションを棚から取り出した。


 治療室にあるのはリーフ草で作られた下級ポーションしかない。


「リモンさんをここに置いてください」


「わかった!」


 怪我をしている冒険者は腹部や足を切り裂かれていた。見たこともない光景に映画の撮影かと思うほどだ。


「気休め程度だけどポーションをかけて」


「うっ」


 思ったよりも酷い状況に息を飲んだ。理学療法士は命が救われた後に介入することが多いためこの光景は見慣れていなかった。


「ぐあああ!!」


 ポーションをかけると冒険者は叫び暴れていた。それを仲間であるパーティーメンバーが三人で必死に押さえつけている。


「ケントくんもっと!」


「はい!」


 プラナスとともにポーションをかけ続けた。それでも下級ポーションだけでは小さな切り傷は消えても、大きな切り裂き傷は何も反応せず出血は止まらない。


「どうしよう……どうしたらいいんだ……」


 何が今の自分にできるか。止血するには圧迫や冷却……今までの勉強した経験を降るに活用させて自分のスキルでできる対象を……。


「スキル……そうだ!」


 俺は思いついたと同時に立ち上がってあるものを取りに行った。


「これならどうにかなるかもしれない」


 俺は治療室に戻り棚から何枚もあるものを取り出した。


「急な居なくなって――」


 俺は綺麗なシーツを取りに行ったのだ。シーツを切り裂き傷の上に置き、手で圧迫止血をしながらスキルを発動させた。


 切り裂き傷が閉じるように、血小板を活性化させ傷口に集まるように……。


「閉じろ! 閉じろ!」


 さらに念じると手のひらから強く輝いた光が溢れている。


「ケントくん何やって……」


「これで大丈夫! 大丈夫だ!」


 自分自身を信じ込ませるために願った。このままいけば傷が塞がる。あの時の気持ちを思い出せと俺は願った。


 アリミアと出会った時も仲間の狼が死ぬ寸前で撫でると傷が塞がった。


 治れ治れ治れ!


「神のスキルじゃな」


 胸元にいたコロポが静かに呟いた。


「塞がってきているわ……」


「いける! 大丈夫!」


 さらに念じると傷は綺麗とは言わないが、かさぶたになり止血された。


「良かっ……」


 安心感で俺は全身の力が抜け落ちてそのまま倒れた。


「ケントくん!」


「なんとか治りましたね」


 無事に治療が終わり、それを見ていた冒険者達からギルド内は歓喜の声が溢れていた。

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