第13話 冒険者ギルド
次の日はロニーの提案で冒険者ギルドに行くことになった。異世界といえば冒険者だが、俺には戦う力がないため正直不安しかなかった。
冒険者ギルドは町の中心にあり、レンガ調の二階建の大きな建物となっていた。
扉を開けるとそこには鎧やローブを着た人達で溢れかえっていた。
「おい、また子供が来たぞ」
「あいつら俺らの仕事をなんだと思ってるんだ」
ケトからの知識でもこの国は子どもでも容赦ないと知っていたが現実はやはり厳しいのだろう。奴隷時代に出会ったクロスや一緒に住んでるロニー達だけが優しいのだろう。
「じゃあ勇気を振り絞ってあそこに並んでおいで」
俺はロニーに言われるがまま受付に並ぼうとしたが、ここでも長蛇の列が出来ていた。
受付が四つある中で一つだけは何故か空いており俺なぜそこに並ばないのか気になっていた。
「あのー、何故あそこだけ空いてるんですか?」
俺は前に並んでいた冒険者に声をかけた。
「ああ、あそこは並ばない方がいいぞ。お前みたいな小僧じゃちびって終わりだ」
俺の中では冒険者ギルド入った雰囲気から邪険にされると思っていたが、意外にも声をかけた冒険者は優しく、俺は内容よりもそっちに驚いた。
「ああ、ありがとうございます。並ぶの嫌いなのであっちに行ってきます!」
正直俺は昔から列に並ぶのがあまり好きではなかった。病院の待合室とかでずっと待っている人を見るとどうにかならないのかと思うほどだ。
「おおお、おい! あちゃー、あいつもう冒険者になれねーぞ」
男はロニーに話しかけていたが、俺はそんなことも知らずに一つだけ並んでいない受付に向かった。
♢
「あのー、冒険者登録したいんですが……」
「ああん!」
「ひぃ!?」
見た目からして厳つい男に俺は戸惑った。ただ、現世でも看護師には無言の圧をかけられることも多々あったし、整形外科の先生なんて風貌からしてこの人より怖かった。
俺は前世で行われてたカンファレンスを思い出していた。入職当時は医者や看護師にいびられたのも良い思い出だ。
「おい、小僧!」
「あっ、はい!」
「要件はなんだ」
「えーっと、冒険者登録をしてギルドカードを発行してもらいたいです」
これで俺の任務は終わった。ギルドカードだけ作れれば問題ないのだ。
「お前じゃ無理だ!」
しかし、受付の男は少し威圧を高めて放った。そのため隣の列に並んでいた冒険者達は一瞬ビクっとなっていた。
たしかに怖いけど集団で質問攻めに合うよりは俺はよかった。毎回あの胃がキリキリするところに参加するぐらいならこの人と話しているほうが楽だと感じた。
「冒険者になれないんですか……?」
「おい、お前歳はいくつなんだ?」
「十一歳になりました」
「それだとEランクだから手伝い程度しかできないしな」
基本的にランクが上がる冒険者になるには十五歳からで十歳から十四歳までは仮登録と言われ、職業体験のようなものだった。
そのため俺ができる冒険者の仕事は町の雑用か採取が中心らしい。むしろ俺としては魔物と戦えないから丁度いい。
「お前スキルは?」
「スキル……」
「冒険者になりたいって言うからには、【剣士】【魔術師】【狩猟】関係か?」
俺はスキルの話しになると何も言えなかった。
「スキル【理学療法】です」
「あはは、なんだそれ」
――バン!
男は強く受付テーブルを叩いた。ただでさえ注目されているのに、大きな音を出したらさらに注目を浴びてしまう。
「冒険者を舐めているのか! 何のために冒険者になりたいんだ」
「ギルドカードとお金が欲しいです」
俺は正直に答えた。だって、そこで強くなりたいとかS級の冒険者になりたいって思ってもないことを言って戦わされるのは嫌だからな。
「くすっ」
俺の言葉を聞いた冒険者達は吹き出していた。
「そんなスキルじゃ戦えないから無理だ。町で働き場所を探せ」
男は俺を追い払うように手を動かした。
「スキルが使えないからどこも雇ってもらえないんです。生活するお金だけあればいいんで……」
俺は必死にお願いすると受付の男も戸惑っていた。
普段であれば他の受付嬢がすぐに仮登録をするがこの男はそれが出来なかった。
それはこの男がエッセン町の冒険者ギルドマスターだったからだ。
そもそも、十五歳に満たない子供で戦闘スキルがある者でさえ、森の採取で命を失うことがある。
そんな中でギルドマスターである男は戦闘スキルがない俺を冒険者にして命を失えば、命の無駄使いをさせるために冒険者にすることと同じになってしまう。
「でも、お金が……」
「じゃあ、お前はスキルで何ができるんだ」
「リハビリが出来ます!」
俺は大きな声でギルドに聞こえるように男に言った。
「リハビリ?」
「あっ、えーっとマッサージとか?」
あたりは一度静まりかえるがその後ギルド内は笑いで包まれた。
「あはは、マッサージって! もはや冒険者じゃないだろ」
「そんなやつはお婆ちゃんの肩でも揉んでろよ」
冒険者達は俺を指差し笑い者にしていた。一応これでも国家資格を持った立派な理学療法士だったのに……。
「ならその【理学療法】を使ったマッサージをしてみろよ!」
ギルドマスターは俺に挑発するように言い放つと俺も負けじと乗っていた。
伊達に毎日必死に勉強して働いてわけじゃないんだからな。俺は気づけばどこか燃えていた。
ギルドマスターはまだ気づいてなかった。妖精のコロポックルや動物達をも魅了するケントのマッサージの凄さ……。
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