第12話 家族

 俺はケトとしてスキルを授かったところからのことを話した。


「ってことがあって森で一人で過ごしてました。だから服も靴もなくてこのままじゃいけないと思って町に来ました」


「……」


 門番の男は何も言わずただ黙っていた。


「すみません」


「グスッ、坊主頑張ったんだな!」


「えっ?」


 門番の男は泣いていたのか鼻を啜っていた。


「よし、ちょっと待っとれ! 仕事を早退するって伝えてくる」


 そう言って男は部屋を後にした。


「大丈夫かな?」


「町に入れそうだからいいんじゃないか。 それにしてもさっきは大丈夫じゃったか?」


「さっき?」


「一瞬取り乱しておったが……」


「ああ、俺もなんであんなに感情が出てきたのかは分からなかった」


「そうか」


 コロポも心配していた通り、俺もなぜあそこまで感情が露骨に出たのか不思議だった。頭の中は相澤健斗の記憶はあっても基本的にはケトなんだろうか。



――ガチャ



 門番の男が戻ってきたためコロポはすぐに俺の服へ戻った。


「よし、小僧! ちょっと家に行ってから冒険者ギルドに行くぞ」


「冒険者ギルド?」


 "冒険者ギルド"って言葉を聞き、俺は異世界の醍醐味にウキウキしていた。


「ああ、あそこに行けば身分証も再発行出来るし、仕事も紹介してもらえるからな」


 どうやら身分証は他にも各々ギルドや組合に所属するとギルドカードとして再発行することができるらしい。


 しかし、専業主婦や自営業を行なっている人達は教会でもらった身分証明書を常に持ち運ばないといけなくなる。


「とりあえず……今日は家に来い」


 俺は男について行くと歩いて十分もしないうちに男の家に着いた。


「アリー帰ったぞ!」


 男は玄関を開けて大きな声で呼ぶと別の部屋から女性の声が聞こえてきた。


「あら、ロニー早かった……あら可愛い子ね」


「ちょっと色々あって少し面倒をみようと思ってな」


「えっ!?」


 俺は女性と門番の男の顔を交互に見た。面倒をみるって一体どういうことなんだろうか。


「あはは、あなたまた話さずに連れて来ちゃったのね」


「あっ、そうだったか……」


 どこか困った表情をしていた俺にロニーもどうすればいいかわからなさそうだった。


「この人口下手だからごめんね。私はそこの大きな男の奥さんでアニーって言うわ」


 たしかに門番は身長が180cmを余裕に超えており、ガタイも良いため俺から見たら威圧感は強かった。


 いかにも強い男ですって体で体現されたような姿だ。


「えーっと、ケントです」


「ケントくんね!」


「ああ、俺はロニーだ」


「ひょっとして自己紹介もせずに連れてきたのね……。はぁー、ケントくんごめんね」


「いえ、大丈夫です」


「ちょっとご飯を作るから待っててね。ロニーはケントくんを綺麗にしてあげて」


 アニーは台所に戻り、俺はロニーに連れられるまま家の中を説明された。


「ここの部屋を今日は使ってくれ。服はこれで、靴はこれだったら入るかな? 水は今持ってくるから待って――」


「お金ないです……」


 物を分け与えるということは何か返さないといけない。それが人間の世界であればお金なんだろう。


 動物達から貰ったきのみや果物も町に来るまでに全て食べてしまったから俺が返せるものはなかった。

 

「ああ、そんなこと心配しなくていいぞ。お湯を持ってくるから待ってろ」


 ロニーは優しく微笑み部屋を後にした。


「なんか良い奴じゃな」


「お金無いけど良いんかな……」


「心配するなって言うぐらいだからここは甘えるのじゃ。お金を稼いだらお礼をすれば――」


――ガチャ!


 話している最中にロニーが帰ってきたためコロポは急いでベッドの下に隠れた。



 その後お湯で少し体を洗い着替え終わるとどこからか良い匂いがして俺のお腹が鳴っていた。


「ははは、気にしなくていいぞ」


 俺は恥ずかしさのあまり顔を赤くしたがロニーは笑っていた。


「二人ともご飯が出来たから早く食べましょう」


 隣から聞こえる声にロニーはニヤリと笑っていた。


「アニーのご飯は世界一美味しいからな」


 俺はロニーに連れられ椅子に座るとそこにはサラダ、お肉、スープ、パンが置いてあった。


 一般家庭で食べるものと変わりないが、奴隷生活と森生活に比べると栄養があるちゃんとしたご飯を久しぶりに見た気がした。


「ゆっくり食べてね」


 アニーとロニーは優しく微笑んでいた。


 俺ははスープを一口飲むと次にサラダ、パンと食べていくと手は止まらなかった。


「うっ……、美味しいです。お母さんの味がします」


 俺の手は次第に震え目からは大量の涙が溢れ出ていた。きっとケトがずっと求めていたものなんだろう。


 心の底から出てくる"愛されたい"という気持ちに俺はいつのまにか支配されていた。


 そんな俺を見てアニーとロニーは耐えきれず抱きついていた。


「ケントくん今まで良く頑張ったね」


 その言葉に俺はいつのまにか嗚咽するまで泣いていた。食べた物を吐かないように必死に手で口を押さえてる姿を見て二人は笑っていた。


「よし、ケント! このままうちの息子になるか?」


「えっ?」


「それがいいわ。ぜひ、そうしなさいよ」


 俺はこの二人が何を言っているのか分からなかった。一応俺はまだ子供だけど奴隷だったやつだ。そんなやつを簡単に息子にして良いのだろうか。


「よし、それじゃあ決定だな」


「あっ、いや流石にそこまでしてもらうのは……」


 急なアニーとロニーの話に俺の涙は止まっていた。


「じゃああなたがちゃんと仕事に着くまでは面倒を見させてちょうだい」


「おお、それでもいいな」


「でも――」


じゃありません! 私達もずっと二人で寂しいのよ」


「俺達の子どもは……がもう大きくなったからな!」


 アニーはロニーになにかを訴えかけるように俺の顔を見ていた。


「わかりました。少しの間お世話になります」


 お互いに握手を交わし二人に進められるがまま一緒に暮らすことになった。

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