第11話 町へ向かいます
俺は森で過ごすようになってから約一年が経過していた。
スキルのお陰で体の激痛は特になくただの筋肉痛程度で済んでいた。そもそも本当に魔素というものが存在しているのかも不思議なぐらいだ。
森にいた時は時折、魔物に狙われることもあったがそれはコロポのスキル【コロポックル】で姿を惑わし戦うことなく生活できていた。
特に生活は変わりなくコロポと森の散策をしては食材を集め、ひたすらスキル【理学療法】の慈愛の心を使っていた。
変わったことと言えば……。
「ほーい、こっちこっち!」
「キャンキャン!」
「あー、お前達は可愛いな。ふかふかだしな」
「ガゥ?」
俺は狼の頭をワシャワシャと撫でていた。
あれから俺は実験として自身やコロポ以外に森で出会った動物達に慈愛の心を使っていた。
はじめは怪我をしていた狼に対してスキルを発動したら次の日には狼の列が出来ていた。
アニマルマッサージをしたことがないはずだが、いつのまにか俺の回りは動物達の憩いの場になっていた。
「あー、これももらってもいいのか?」
「ガゥ! ガゥ!」
「サンキュー!」
動物達はお礼としてきのみや果物を中心に持ってきてくれた。たまに肉を持ってきてくれた時は格別だった。
服などは魔物に殺された人達の物を洗って着ていた。
「よし、これで最後か! 今日でお別れだな」
狼やリス、鳥などが常連客として来ていたが動物達は俺の旅立ちに悲しんでいた。
俺は長いこといたこの森を今日離れるつもりだ。
「小僧のスキルはやっぱり変わってるな」
「この子らのお陰でどうにか生きていけたのもあるからな。準備も出来たから街に向かおうか!」
俺は蕗の葉で包んだ肉や果物を持って、街の方へ向かうことにした。
♢
町までは意外に近く奴隷商があった街とも近かった。
南側に俺が捨てられた森があり、北西に向かうと町、北東に向かうと奴隷商の街があった。
ちなみに俺が住んでいた村は東に行くと点在している村の一つだった。
その中でケントは北西にある町に向かっていた。
「小僧大丈夫か?」
「森を歩き慣れてるから大丈夫だけど流石に靴がないのはな……」
道に迷いながらも町に向かって歩き初めて気づいたら半日が経った。
森にいた時は柔らかい土のところを蕗で作った葉の靴で歩いていたため問題はなかったが、石や砂利で出来た道を歩くには流石に葉の靴では痛かった。
「ほれ、もう町が見えとるぞ!」
「ほんとだね」
俺の足はついた頃にはボロボロになっており葉からも血がにじみ出ていた。
町は奴隷商があったところに比べると質素だがある程度の外壁で囲んであった。
森もそんなに遠くないため魔物や動物が侵入できないように最低限な作りにはなっているのだろう。
「じゃあ、わしは姿を隠すからな」
そう言ってコロポは俺の服の中に隠れていた。
女の子の妖精であれば俺も嬉しいが胸の中に入っているのが小さいおっさんとはな……。
次第に外壁に近づくと門の前には長蛇の列ができていた。
俺はその列に並ぶことにしたが、格好も貧相で汚く、ケント自身が年の割には小柄で貧相なため周りからは蔑むような目で見られていた。
「じゃあ、身分を証明書するものを出してくれ!」
犯罪者を入れないよう門には門番が身分の確認をしていた。奴隷になった俺は身分証明書を奴隷商が持っていた。
もちろん死んで捨てられた身だから身分証明書も今どこにあるかわからない。
「おい、坊主身分証を出せ」
門番は俺に詰め寄ってきたが俺はどうすることもできなかった。
「あのー、身分証が無くて……」
門番の男は俺を頭上から足先までくまなく見ていた。
「お前ちょっと来い! おい、コラムちょっと変わってくれ」
門番は他の人に声をかけていた。
「えー、またですか。こっちも忙しいのに……痛っ!?」
「お前は黙って仕事せい」
「はーい」
二十代前半と思われる男性は門番をしていた四十代の男に殴られていた。
それを見ていた俺も今後どうなるか分からず知らない間に体が震えだしていた。
「坊主大丈夫だ! こっちに来い」
門番は震えている俺を見ると、そのまま抱え込み門の近くにある建物へ連れて行かれた。
普通であれば十歳になる子であれば抱えるのも大変だが俺は小さいためあっさりと連れて行かれた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
俺はケトの意識に引っ張られいつのまにか幼児退行していた。
胸の中に入っていたコロポも初めての俺のの様子を見て驚いていた。
「おい、坊主!」
「はい!」
俺はびっくりして声が裏返っていた。
「そのー、すまんな」
門番の男は俺を椅子に座らせると頭をガシガシと撫でた。
その手の温もりに俺はいつも通りの落ち着きを取り戻した。
「取り乱してすみませんでした」
「ああ、こっちこそ急に連れ出してすまんな。ここに手を置いてもらってもいいか?」
門番は水晶玉を持ち出し手を置くように指示をしてきた。俺は言われた通りにそこへ手を置くと、水晶玉は青く光った後にしばらくすると落ち着いた。
「これは……?」
「犯罪歴がないか確認しているところだ。赤くなると何かしらの犯罪歴があるってことで街の中には入れれないんだ。基本的には赤く光れば犯罪奴隷としての扱いになるしな。犯罪奴隷が終われば教会にいくことで元に戻すこともできるから何とも言えないがな」
俺は犯罪奴隷の扱いを受けていたが、普通奴隷のため赤くは反応しなかった。
「坊主、親はどうしたんだ?」
門番はわかりながらも俺に質問してきた。内心正直に伝えても良い気がしたが、小声で胸元にいるコロポに俺は相談することにした。
「コロポどうするべき?」
「こいつには悪意を感じないからいいと思うぞ」
コロポには妖精特有なのか相手に悪意があるのかどうかが分かる力があった。
だから俺はコロポを信じて門番である男に今までの経緯を話すことにした。
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