固まる悪魔さん。

「わたしは君以外には見えないんだよ? 君が急病で倒れても助けも呼べないよ?」

「そんなこと求めてません」

「で、でも、そもそもわたしは君の心臓を握っていて」

「それでいいです」

 悪魔さんは慌てふためく。

「君は自分が何を言っているのか分かっているのかい?」

「はい、分かってます。今日、委員長と話してみて分かったんです」

「なにを?」

「話し相手は一人で十分で、僕の話し相手は悪魔さんだけで満ち足りているんだって」

 僕はそれだけ言うと。

「じゃ、僕、お風呂入るんで、覗かないでくださいよ」

「う、うん……」

 たまにこうして釘を刺しておかないとふざけて覗きに来るのだ。

「どうしようどうしよう、あれって告白だろうか、いやいや早計だ。でもでも実質『君だけで良い』と言っているようなもので、でもでもお風呂には来るなって言うし、あーもー分からない! このわたしに分からない事があっていいのか!? 良くない! こうなったら確かめないと!!」

 お風呂場にて。

「なんかよく身体はどこから洗いますか、とか質問あるよな……あれってどんな意味が」

「僕くん!!」

 ドーン! とドアをすり抜けて来た悪魔さん。

「うわぁ!? ば、馬鹿!? 何してるんです!?」

「分からないんだ! さっきのは告白かい!? 私を好きだと言いたいのかい!?」

「は、はぁ!? いや違いますけど!?」

「え、違うの……?」

「は、はい……」

「……そう」

 すぅ~っとドアの向こうに消えていく悪魔さん。

 僕は思い切り溜め息を吐く。

「なんだったんだ……?」

 リビングにて。

「そうか……告白じゃないのか……どういう事だろう……この気持ち……わたしは悪魔なのに……」

「お風呂出ましたよーって悪魔さん!?」

「うん?」

「なんで逆さまに浮いてるんですか……?」

「ああ……なんでもないよ、シュークリーム食べたいな……」

「あっ、はい、今、出しますね」

「うん……ありがとう……」

 シュークリームを手渡すと逆さまの悪魔さんはクリームを床にこぼした。

「あっ……」

「……新しいのまだありますけど」

「いい……まだ皮は残ってる」

 もそもそとシュークリームの皮を頬張る悪魔さん。

「あの、なんか言いたい事あるなら聞きますけど」

「言いたい事なんかないよ……ほっといてくれたまへ……」

 宙に浮いている悪魔さんはどこまでも彷徨っていた。

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