委員長とのデート後、緊張でくたくたになって帰宅する。

「はぁ……」

「おやおや美人とデートだったというのに随分な疲れようだね?」

「いちいち悪魔さんが茶々いれてくるから余計に疲れたんですよ……」

 デート中ずっと渋谷の街並みに興奮していたのは悪魔さんだ。

『ハチ公! ハチ公だ! タワレコのハチ公だ!』

 等々。

 うるさかった。

「いやあ、わたしとしたことが年甲斐もなく興奮してしまった」

「いくつなんです?」

「女性に年齢を聞いてはいけないよ」

「はいはい、で、いくつなんです?」

「ふむ、君はわたしを女性として見てくれていないようだ」

「見て欲しいんですか?」

「そんな事、わたしの口から言わせないで欲しいね」

 うーん……悪魔さん、見た目はかわいいんだが。

 なにせこの性格の上に、心臓まで握られているのだ。

「まあ君には委員長との逢瀬があるのだから、わたしの事など気にしないでくれたまへ」

「もう委員長と付き合う事は決定事項なんですか?」

「おや? 委員長じゃ不満かい? 彼女もなかなかの美人だと思うのだが」

「そういう問題じゃなくて、僕になにをさせたいんですか」

「だから君を上位カーストに導いてあげようと言っているのだよ」

 そんな事、望んでないのだが。

「おや? 君はバラ色のスクールライフに興味はないのかい?」

「バラ色ねぇ」

「疑っているのかい? 心外だなァ」

「悪魔さん、一つ言いたい事があります。俺は今の状況に不満は無いんです」

「へぇ、それは興味深いね。君はスクールカーストで言えば下位。上位に比べれば充実しているとは言い難いのだよ?」

「それでも、です」

「本当に興味深い。現状に甘んじる事を是とするとは、何を根拠に自分が幸福であると定義するのか?」

「過剰な幸福は毒になります」

「過剰な幸福! いいねいいね! もっと聞かせてくれ! 君の話は本当に面白い!」

「僕はありふれた日常があればそれでいい、下位とか上位とか、そういうのは求めてないんです」

「君はどこにも属さない。と?」

「そうです」

 僕は深く頷く。

「どうして?」

「それが僕の幸福だからです」

「孤独である事に幸福を求めるのかい! 人間社会ではなく仙人にでもなるべきじゃないのかい?」

「社会に適合したくないわけじゃありません。人間は一人じゃ生きられない。今だって僕は親のお金で暮らしています」

「そうだろうとも」

 悪魔さんは腕を組み目を伏せる。

「だけど、それと孤独に生きる事はイコールになりません」

「ふむ、ある程度の社会性を持ちながら、あえて人との関わり合いを避けて生きると? そんなの待っているのは孤独死だよ」

「悪魔さんがいるでしょ?」

 悪魔さんは目を見開いた。

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