⑤
委員長とのデート後、緊張でくたくたになって帰宅する。
「はぁ……」
「おやおや美人とデートだったというのに随分な疲れようだね?」
「いちいち悪魔さんが茶々いれてくるから余計に疲れたんですよ……」
デート中ずっと渋谷の街並みに興奮していたのは悪魔さんだ。
『ハチ公! ハチ公だ! タワレコのハチ公だ!』
等々。
うるさかった。
「いやあ、わたしとしたことが年甲斐もなく興奮してしまった」
「いくつなんです?」
「女性に年齢を聞いてはいけないよ」
「はいはい、で、いくつなんです?」
「ふむ、君はわたしを女性として見てくれていないようだ」
「見て欲しいんですか?」
「そんな事、わたしの口から言わせないで欲しいね」
うーん……悪魔さん、見た目はかわいいんだが。
なにせこの性格の上に、心臓まで握られているのだ。
「まあ君には委員長との逢瀬があるのだから、わたしの事など気にしないでくれたまへ」
「もう委員長と付き合う事は決定事項なんですか?」
「おや? 委員長じゃ不満かい? 彼女もなかなかの美人だと思うのだが」
「そういう問題じゃなくて、僕になにをさせたいんですか」
「だから君を上位カーストに導いてあげようと言っているのだよ」
そんな事、望んでないのだが。
「おや? 君はバラ色のスクールライフに興味はないのかい?」
「バラ色ねぇ」
「疑っているのかい? 心外だなァ」
「悪魔さん、一つ言いたい事があります。俺は今の状況に不満は無いんです」
「へぇ、それは興味深いね。君はスクールカーストで言えば下位。上位に比べれば充実しているとは言い難いのだよ?」
「それでも、です」
「本当に興味深い。現状に甘んじる事を是とするとは、何を根拠に自分が幸福であると定義するのか?」
「過剰な幸福は毒になります」
「過剰な幸福! いいねいいね! もっと聞かせてくれ! 君の話は本当に面白い!」
「僕はありふれた日常があればそれでいい、下位とか上位とか、そういうのは求めてないんです」
「君はどこにも属さない。と?」
「そうです」
僕は深く頷く。
「どうして?」
「それが僕の幸福だからです」
「孤独である事に幸福を求めるのかい! 人間社会ではなく仙人にでもなるべきじゃないのかい?」
「社会に適合したくないわけじゃありません。人間は一人じゃ生きられない。今だって僕は親のお金で暮らしています」
「そうだろうとも」
悪魔さんは腕を組み目を伏せる。
「だけど、それと孤独に生きる事はイコールになりません」
「ふむ、ある程度の社会性を持ちながら、あえて人との関わり合いを避けて生きると? そんなの待っているのは孤独死だよ」
「悪魔さんがいるでしょ?」
悪魔さんは目を見開いた。
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