第3話 秘策①
…。
って、待って!
ちがうちがう!
今から私は本当のことを伝えないといけないんだから!
と、本来の目的を思い出した私は寺舞さんに声をかける。
…はずだったのだけど。
「先輩。」と先に寺舞さんに声をかけられ。
出鼻を挫かれた私は「ひゃ、ひゃい!」と変な返事をしてしまう。
クスクスと笑いながら「わたし夢があったんです。」と言う寺舞さん。
「ゆ、夢…?」と照れながら質問すると「はい!夢です!」と嬉しそう笑っている寺舞さん。
「それってどんな?」と尋ねると「それはですね。恋人が出来たらこうやってお弁当を作って。一緒に食べたいなって。だから今日夢が叶って幸せです!」とすごく幸せそうな寺舞さん。
「あ、でもでも!他にもいっぱいあるんですけどね!」と言う寺舞さん。
え…。
無理じゃない…?
これどうやって本当のこと伝えればいいの!?
と、内心焦りながら、苦笑いするしかできない私。
今回も伝えることができないで終わる。
…わけではない。
実は私は秘策を用意していたのだから。
一応失敗した時のイメージトレーニングしててよかったぁとホッとする。
さて、その秘策とはなにかというと。
名付けて『私のダメなところを言って幻滅されよう作戦!』
内容はとにかく私のダメなところを言うだけの単純な作戦で。
自分へのダメージがかなりすごいことになるのだけど…。
ま、まぁとにかく作戦実行!
まずは「お弁当すごく美味しかったよ!自分で作ったなんてすごいね!」と話題を振る。
すると「えへへ。ありがとうございます!」と嬉しそうな寺舞さんに「私なんて料理一切出来なくて。一人暮らしだから自炊しないといけないのはわかってるんだけど、めんどくさくていつも出来たもの買ってきちゃうし…。」と私の一つ目のダメなところを話す。
これで幻滅してくれればいいんだけど。
そう思っていたけど…。
「先輩!それなら毎日お弁当作ってきてもいいですか!?ご飯作りに行ってもいいですか!?」となぜか少し興奮気味の寺舞さん。
「え。えっと…。それはさすがに悪いというか…。迷惑かけちゃうし…。」と戸惑っていると「迷惑なんかじゃないです!先輩の為にお弁当作りたいんです!先輩にご飯食べてもらいたいです!」とさらに身を乗り出す寺舞さん。
そんな寺舞さんに負けて「う、うん。ありがと。」と返事をしてしまう私。
「よーし!頑張っちゃお!あ、でもでも!一緒に作るのも楽しそうですね!」とワクワクしている寺舞さんの横で一つ目失敗とガックリする。
というわけで二つ目!
「寺舞さんって自分の部屋は綺麗な方?」と質問する。
すると「んー。そうですねぇ。綺麗にするように心がけてます!」と答えてくれる。
「そうなんだ。寺舞さん偉いんだね。」と素直に感心していると「あ、でも…。」と少し元気がなくなった様子で。
「どうしたの?」と尋ねると「はい…。綺麗にはしてるんですけど…。」となんだか歯切れが悪い反応で。
なんだろ?と首を傾げていると「あ、あの!ぜ、絶対笑わないでくださいね!」と釘を刺される私。
「う、うん。」と返事をすると「え、えっとですね。わたしぬいぐるみが好きで。部屋にいっぱいぬいぐるみがあるんです。大きい物から小さい物まで。それでお母さんによく増やしすぎ!って怒られちゃって…。」と恥ずかしそうに言う寺舞さん。
寺舞さんといっぱいのぬいぐるみ…。
それを想像すると、すごくかわいいなぁって和んだ気持ちになり思わず微笑んでしまう。
すると「あー!せ、先輩笑ってる!笑わないって言ったのに!ひどいですよー!」とプンプンする寺舞さん。
「あ、ち、ちがうの!ぬいぐるみに囲まれてる寺舞さんかわいいなって考えたら…。」と弁明する。
「え、え!?か、かわいいって…!せ、先輩にかわいいって…!」と照れている寺舞さん。
そんな姿もかわいいなぁ…。
そう思ったのだけど、そもそも私の目的とずれていたことに気づき話を戻すことに。
「私片づけが苦手で…。出したら出しっぱなしのことが多いんだよね…。」と話す。
「片づけって大変ですもんねぇ…。特に先輩は一人暮らしで大変ですからねぇ。」と言うと考え込み。
「あ、それじゃあご飯作りに行って、その時に一緒に片付けもしましょ!二人でやれば早いし楽しいですよ!」と嬉しそうな寺舞さん。
さすがにそこまでしてもらうのは…と言いかけるけどきっと押し切られちゃうんだろうなと考えた私は言うのをやめて「あ、ありがと…。」とだけ返事をするのだった。
二つ目も失敗!!!
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