第2話 お弁当

キーンコーンカーンコーン


お昼の時間を告げるチャイムが鳴る。


ついにこの時間がやってきた。


私は緊張しながらも寺舞さんがやってくるのを待つ。


すると、スマホに「着きましたー!」と連絡が入る。


クラスの入り口を見てみると、片方の手には大きめのお弁当袋ともう片方の手で私に手を振っている寺舞さんの姿があった。


穂波に「それじゃあ行ってくるね。」と伝えると頑張れ!と送り出される。


寺舞さんの元へと着くと「えへへー!やっと本日の先輩の姿見れましたー!」と嬉しそうにしていて。


「ご、ごめんね。私が寝坊しちゃったから。」と改めて謝ると「気にしないでください!先輩のせいじゃないです!」と言ってくれて。


今からこの子に酷いことを伝えないといけないんだなぁと考えると落ち込んでしまう。


するとそんな私に気づいたのか「もー!先輩そんな顔してたらだめですよー!元気出してください!ほら!にこー!」と笑顔を私に見せる寺舞さん。


私が落ち込んでいる本当の理由は別なんだけど、今は寺舞さんをこれ以上心配させたらいけないと思った私は気持ちを一旦切り替える。


約束していたお昼を一緒に食べようと。


さて、それにはまず私は行かないといけない場所がある。


基本的に私は購買部でパンを買ってお昼を済ましている。


そのことを寺舞さんに伝え、向かおうとしたのだけど…。


「わかりました!それじゃあ行きましょっか!」と寺舞さんに手を引かれる私。


だけど、進む先は明らかに購買部の方向ではなくて…。


それを寺舞さんに伝えると「大丈夫ですよ!」と嬉しそうな顔をしながら尚も私の手を引き歩く寺舞さん。


もしかして、朝のこと怒ってるんじゃ…。


あるいはこれから伝えないといけないことに気づいてて…。


それで私のお昼抜きにさせようとしてるんじゃ…。


なんて考えながら歩いていると寺舞さんが立ち止まる。


そこは学校の中庭で。


「ここでお昼食べましょ!」と笑顔の寺舞さん。


「う、うん。そうだね。」と返事するも、そのお昼を私はまだ買えていなくて。


とりあえず急いで買ってくるねと伝えると「もー!先輩!大丈夫って言ってるじゃないですか!」とプンプンとする寺舞さん。


言ってる意味がわからない私が困惑していると、その場に私を座らせて隣に座る寺舞さん。


すると、お弁当袋から二つお弁当を取り出して片方の蓋を開けると「じゃーん!どうですかー!美味しそうですかー!」と見せてくれる。


たしかに美味しそうだけど今の私には羨ましいというか…。


なんか悲しくなってきた私。


「え…?え!?な、なんでそんな悲しそうな顔をしてるんですか!?」と驚く寺舞さん。


「だ、だって私お昼が…。」と伝えると「もしかしてですけど先輩…。」と私の顔をじーっと見つめる。


少しドキッとしながらも「う、うん…?」と返事をすると「わたしが朝のこと怒って、お昼買わせないで見せびらかしてるとか思ってませんか…?」と尋ねてくる。


「え…。ち、違うの…?」と恐る恐る聞き返すと「ひどーい!そんなわけないじゃないですかー!」とプンプンとする寺舞さん。


いまいちわかっていない私は困惑する。


すると「これは先輩の分です!先輩の為に作ったんですよ!」と尚もプンプンする寺舞さん。


「え!?わ、私の分!?」と驚いていると「そうです!先輩の分です!お弁当二つあるのになんで気づいてくれないんですか!悲しいなー!えーん!」と泣き出してしまう。


そんな寺舞さんに慌てて「ご、ごめんね!まさか私の分だとは思わなくて…。ほ、ほんとにごめんね!」と謝る。


正直、いっぱい食べる子なのかなとか思ってたけど今は言わないでおこう…。


「食べたいですか…?」とポツリと呟く寺舞さん。


「へ…?」と驚いていると「お弁当食べたいですか…?」と今度ははっきりと尋ねる。


「う、うん!食べたい!是非!」と伝えると「えへへー!しょうがないですねー!」と笑顔の寺舞さん。


ここでさっきのが泣き真似だったことに気づいたけど、追求するのはやめておく。


こうして私は寺舞さんからお弁当をもらえることになったわけで。


さて、そのお弁当なんだけど。


ちゃんと見てみると驚くことになる。


綺麗に巻かれた卵焼きや、タコさんウインナー、小さめのハンバーグなどほとんどが私の好きなもので。


そのことを伝えると「わー!そうなんですね!よかったー!あ、これ食べてみてください!」と卵焼きを掴んであーんと私の口元へと運ぶ。


恥ずかしさから断ろうと思ったけど、ニコニコしている寺舞さんを見ると断れず。


なにより寝坊して朝ご飯抜きだった私は食欲に勝てるわけもなく。


思い切って食べることにした。


さて、お味の方なのだけど。


空腹もあったけど、ふわふわで甘めの味付けは私が大好きなもので。


すごく幸せを感じ。


「ど、どうですか…?」と心配そうに見つめる寺舞さんに「美味しい。すごく美味しいよ!」と笑顔で答える。


すると「やったー!えへへ!いっぱい食べてくださいね!」と喜ぶ寺舞さんに「うん!ありがと!」とお礼を伝えると今度は自分で食べ進める。


お弁当の中身はどれも美味しく、あっというまに完食した私は寺舞さんから受け取ったお茶を飲みながらホッと一息をつくと、隣でニコニコしながら自分の分を食べている寺舞さんを眺める。


うん。


こんなかわいい彼女がいて。


お弁当を作ってもらって。


今の私すごく幸せだなぁ。

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