カナダへ

 ★★★


 父が手際よく準備を進めたこともあって、あっという間に出発日を迎えた。

 国外旅は初めてであるものの、飛行機に乗るのは何度目かだったので、怖さというものは無かった。


 「半日は飛行機に乗るぞ」と父は言っていたが、実際に乗ってみるまでそれがどのくらいの長さなのかさっぱり分からなかった。


 いよいよ成田空港発の便に乗った私たちは、成田からカルガリーへ、カルガリーからイエローナイフへと乗り継いでいった。


 ――なるほど、これが父の話していた距離か。

 そう納得するには充分な空の旅だった。


 父から聞いていた通り、およそ半日にわたるフライトを終えた私たちは、空港でタクシーを拾ってグレートスレーブ湖付近にあるホテルを目指した。


 飛行機に乗っていた時間がとても長かったからか、タクシーは瞬く間にホテルへと到着した。

 タクシーとはこんなに速い乗り物だったのか、と妙に感心したことを覚えている。


 タクシーの代金を支払うと、運転手は気前の良い笑顔を見せてから走り去っていった。


 タクシーの降車場所からは、湖の様子がよく見えた。

(とは言っても、反対岸が見えないほど大きな湖なので手前側の様子しか分からなかった。)


 広大なグレートスレーブ湖の湖面はとても穏やかで、落ち着いたダークグリーンの葉をまとった木々たちが湖の周りを囲んでいた。

 異国を感じる町並みも風景によく溶け合っている。住みやすそうな場所だな、と直感的に思った。


「ぼうっとしてると、置いてくぞ」


 私は慌てて荷物を背負い直し、父を追ってホテルへと歩き出した。


 その後、無事ホテルに到着した私たちはチェックインを済ませ、部屋で休息をとることにした。


「出かけるのは夜になってからだから、今のうちにゆっくり休んでおけ」


 父は少しだけ仮眠を取った後そう言い残し、どこかへと出かけていった。

(今思えば、少し危ない気がする。)


 初めての時差に疲弊したのか、あるいは無意識で異国の空気に緊張していたのか、父が鍵を閉める音を聞き届けてすぐに私は深い眠りに落ちた。

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