オーロラが私に見せたもの

花沢祐介

父の提案

 私が初めてオーロラを見たのは、小学校四年生の夏のことだった。


 お盆を過ぎた頃、当時十歳の夏休みを満喫していた私は、父に連れられてカナダのイエローナイフという街を訪れた。


 ★★★


宏太朗こうたろう、父ちゃんが良いもの見せてやる」


 カナダ行きの話を私に持ってきたとき、父はえらく意気込んでいた。


「あ、お母ちゃんには内緒な?」


 どうやら父は、二人旅の行き先を母に隠していたらしい。

 おそらく「心配をかけまい」という父なりの気遣いだったのだろうが、むしろそのせいで母は余計に心配をしていたようにも思う。


 もともと父はフラッとどこかへ旅に出るという性分で、日本国内のみならず世界各地にも足を運んでいた。

 私もその旅路に度々同行していたのだが、行ったことがあるのは国内のみだったので、カナダ行きは私にとって初の国外旅となった。


「国内と違って着くまでにすごく時間がかかるぞ。なんてったって、太平洋っていうでっかい海を渡るんだからな」


 父は世界地図を広げながら、嬉々として旅の目的地を教えてくれた。

 遠いから時間がかかるという話をしているにもかかわらず、父は何故か楽しそうだった。


 とはいえ当時、時間も元気も有り余る少年だった私からすると、耳で聞くだけではカナダとの距離はそれほど遠くないように思えた。

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