第504話
傷を癒したが既に寿命を迎えようとしているホワイトディアは上体を起こしながらこちらを見ていた。
「そうですか……なるほど……分かりました。」
「どうしたんだ?」
「ホワイトディアの子供であるセイントディアを連れて行って欲しいそうです。」
「あの子を?」
今も横になっているホワイトディアを心配そうに寄り添っている小さな銀色の毛皮をした鹿のモンスターであるセイントディアを見る。
「そうみたいです。どうやらゴブリンキングが生まれた結果、この魔境にはゴブリンが大量に繁殖してしまい、その結果ホワイトディアは子供を産んだ事もあり負けたそうです。」
「ゴブリンキングがいるこの場所に子供を置いておけないから連れて行って欲しいって事か。」
なるほどと納得したが、何故ホワイトディアはハルトたちに自身の子供のセイントディアを連れて行かせる様と思ったのかは分からない。
それほどホワイトディアと仲良くしていた訳ではないし、本当に何故なのだろうか?
そんな疑問を聞いてみたところだが、段々とホワイトディアの呼吸が浅くなり始めて来た。
「もう、駄目なのか?」
「ええ、このまま見送りましょう。幸い苦痛は感じていない様です。」
セイントディアが親のホワイトディアを呼ぶ鳴き声が聞こえるなか、ゆっくりとホワイトディアは息を引き取った。
静謐な泉の中でセイントディアの親を呼ぶ鳴き声が、何処までも響き渡る。
それからしばらくしてセイントディアも親のホワイトディアが死んでしまった事を理解した様で、セイントディアはハルトたちの方へと顔を向ける。
「ナビィ、セイントディアにこれからどうするかを聞いてくれるか?」
「分かりました。」
ナビィにセイントディアから今後の事を聞く様に頼むと、ハルトはしょんぼりしているヒスイとプルンを慰める。
ヒスイとプルンの二匹はまだまだ弱かった頃、ここで修行をしていた時にホワイトディアと遊んだ事を思い出している様だ。
まあ、ヒスイとプルンが遊んだと思っている様だが、実際はヒスイとプルンが何もして来ないホワイトディアの身体に乗っかったりしていただけだが。
「ハルト、終わりましたよ。セイントディアは私たちに着いて行くそうです。契約をしてください。」
「そうか、分かった。」
セイントディアはハルトたちの仲間になる事を決めた様だ。ハルトは仲間にする為にセイントディアと契約を行なう。
セイントディアを中心にして光が発生し包み込む。そして光が収まると、これでハルトとセイントディアとの間に契約がなった。
そしてハルトは仲間になったセイントディアの名前を決める。幾つかの案を考えたなかから、ハルトはセイントディアにロクという名前を付けた。
「これから俺たちは仲間だ。よろしくな、ロク。」
『よろしく。』
念話をいきなり使いぺこりとロクが頭を下げる。いきなりの念話に驚いてしまう。
「念話が使えるんだな。」
『なんとなく?』
なんとなくで使える様になったのか。これには別の意味で驚かされる。これはツララも念話を頑張って貰いたいところだ。
それからハルトはロクにホワイトディアの亡骸をどうするのかを聞いた。
『ハルトの好きにすれば良い。』
「そうか?」
元々野生のモンスターに弔うなどの習慣はないからだろう。
それならという事でハルトはホワイトディアからアンデットにならない様に魔石と角と毛皮の一部だけ回収すると、魔法で作り出した穴にホワイトディアを入れる。
「最後にお別れだけすると良い。」
ホワイトディアの子供であるロクや悲しんでいたヒスイやプルンにそう声を掛けると、ハルトは泉の周りに生えている食用の果実を実らせる木から枝を回収する。
ホワイトディアとの最期のお別れが終わった様なので戻ると、ホワイトディアに土を被せていく。
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