第23話 ゴスロリっていいよな
教室でいつものように友人と話している時、事故は起きた。
「いやーゴスロリっていいよな~」
友人の未央がそう言った時点で、俺はなんとなく嫌な予感がしていた。俺がゴスロリの衣装を着たのは昨日のことだった。
「どうしたんだ?いきなり」
他の友人が未央にそう声をかける。いや、この前見せた女の子がいるじゃん。あの子の新しい写真がアップされてたんだよ。そう言って未央が出した写真をみんなが覗き込む。
「へー、いいじゃん」
「俺もさっき見たわ。いいよな」
「えっろ、おっぱい見えそう」
ヒナタも見ろよ。と言って彼が見せてきた写真は案の定というべきか、俺のものだった。昨日は少し調子に乗っていたところもあるとはいえ、いきなりアップロードされているのは思わなかった。
今回の写真は4枚、いずれも夕が取ったものだろう。彼女にはアカウントにログインするパスワードを教えていないので、おそらく夕がアサヒに渡した写真をそのままアップしたんだろう。
俺は後でアサヒに事情を説明してもらおうと思いながらも、その写真を薄目で見た。自分も画像を持っているので、当然見たことある被写体であるのだが、何というか、人から撮ってもらった写真はまた別の良さがあった。
ただ、胸が見えそうなのは少し注意してほしかった。リプライに危ないコメントがちらほら。これ、男だから良かったけど普段からこんなコメントを受けているグラビアアイドルなんかはどんなふうにメンタルを保っているのだろうか。俺はついそんなことを考えてしまう。
「いやー、これはきわどいな。貧乳だし角度によっては見えてるだろ」
目の前の男子がそのリプライと似たようなことを言い出す。男子の気持ちも分からなくはないが、どうしても対象が自分であることを考えてしまうと複雑な気持ちになってしまう。
「おい、校内であんまりそういうこと言うなよ」
俺は流石に注意する。それ、誰かさんに見られると色々まずいからやめてほしい。
「なんだよ。そんなの気にする奴じゃなかっただろ?お前、もしかして好きな奴でもできたのか?」
そんなことを言っていると。
「何やってんの?」
そう、こんな時に限って彼女はやってくる。水谷彩は今の俺にとっては面倒な地雷原でしかなかった。
「ああ、エッチな話を少々」
誤解だ。そんな目で見ないでください。彩の視線が痛い。
「ふーん、そっか。じゃあね」
だが、そのおかげで彩は興味なさげにその場を離れていった。おかげで助かったので、ある意味ありがたかった。
「あー、エロい画像見てたらむらむらしてきたからトイレでしこってくる」
そんなことを言って未央は席を立った。どうせただの小便なのだろうが、冗談でもこのタイミングでその言葉を聞きたくはなかった。
彼が席を立つタイミングで、同時に何人かも席を立ち、自然と解散する流れになった。俺はなんとなく彩の方が気になって彼女の方を向くと、『教室の外に出て話そう』という意味で、廊下の方を小さく指さした。
それは付き合っていたころ、二人で話したいことがあったときにちょくちょくやっていたことだった。なんとなくの懐かしさを感じながら、あまりよくない予感を感じつつ、俺は周りの人にばれないように自然に席を外して廊下に出て少し離れた距離を保ちながら彼女の方へ向かった。
♢
彼女は中庭へ向かっているようだった。かつて、どうしても二人になりたい時に何度か行ったことがあった。中庭のベンチには、俺たちの他にも何組かのカップルらしき集団がいた。二人で横になって座るが、昔の同じようなことをしていた時期に比べて、今は少しだけ二人の間隔があいている。その隙間になんだかさみしさを感じた。
「あのさ、昨日のゴスロリ衣装。アレ何?」
思えば、彼女は俺の例のアカウントの存在を認知しているのだ。知っていて当然なのである。
「まあ、流れで」
「普通の男は流れで女装はしない」
彼女は怒っている様子だった。彼女は弟がそういう格好をしたがることを嫌っていると聞いている。つまり、自分の知り合いがそのような格好をしていることに我慢ができなかったのだろう。
逆に考えると、彼女にとって俺は忘れたい存在ではなく友達の一人でいて欲しいということなのかもしれない。もしそうならば、少しだけ嬉しい。
今までの僕であれば、その時点で反論できずに黙ってしまっていただろう。だが、弟の事情を知ってしまった今、俺は彼女に反論せずにはいられなかった。
「別に、おかしいわけじゃないと思うよ」
俺の口からそんな言葉が出るとは思わなかったのか。彼女は目を大きく見開いて、金魚みたいに口をパクパクとさせていた。俺は、いたって真剣だった。彼女の次の言葉を、じっと待った。
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