第19話 おかえりなさいm
『ひなた先輩、週末に行ってみたい場所があるんですけど一緒に行きませんか?』
咲空からそんなメッセージがあったのは昼休みだった。
『俺は構わないが、どこに行きたいんだ?』
『コンカフェです』
『コンカフェ?』
『コンセプトカフェのことです。コスプレした人が接客してくれるお店です』
『メイド喫茶みたいなものか』
『まあ、イメージはそれが近いですね』
『いいよ、集合時間と場所だけ教えてくれたらついていく』
『わかりました。11時2分僕の最寄駅発の電車でどうですか?目的地のURLも送っておきますね』
そう言われて数分後にURLが送られてきた。内観の画像や働いている女性のイメージ画像が見られた。
それはメイド喫茶のようだったが、自分の思ったテンプレートなそれとは少し違うように思えた。
どういうことかというと、少しコスプレの内容がダークな雰囲気によっているような気がしたのだ。知識がないので正しいのかわからないがゴスロリというやつだと思う。
そういう系統の服は姉のものであってもあまり見たことがないのでイメージがつかない。咲空がそういうのに興味があるのは彼の姉である彩の影響があるのだろうか。あまり彼女がそんな服を着るイメージはないのだが。
俺はそんなことを考えながら彼女の方に少し視線を向けた。
♢
週末、俺は約束通りの電車に乗って咲空と合流した。
咲空は男子高校生としては標準的なTシャツとズボンのスタイルでやってきた。女装してこられたらどうしようかなども少しだけ考えていたのだが、結果としては杞憂に終わった。
「ひなたさん、おはようございます」
あれから彼とは時々一緒に学校に行くようになっていた。なぜ、時々という頻度なのかというと、あくまで推測にはなるが、彼の友人に必要以上に親しい関係だと思われないようにしたいのだと思う。
休日に後輩と二人で出かけることはなかったので、素直に楽しみだった。弟がいればこんな感じなのだろうかなどと考えていると学校の最寄り駅を通り越して、そのまま揺られて目的の駅に着いた。
目的地は繁華街の駅で、以前佐々木さんといった喫茶店の数駅向こうの方だった。二人でそこからしばらく歩くと目的地に着いた。周りにはアニメグッズを販売しているようないわゆるオタク系の店が多い場所だった。何度かこの駅を利用したことがあったが、いつもとは違う方向に歩いていたので、少し離れたところにこういった景色が広がっていることは意外に感じた。
俺は駅から歩いてきた景色を見て秋葉原のようだと思ったが、最近の秋葉原はオタクの聖地でなくなりつつあるというネットニュースを思い出して適切なたとえではないかもしれないとも思った。
咲空が携帯をちらちらと見ながら多分ここですと言ってビルを指さした。あまりこのような場所を訪れたことがないから分からないがいたって普通のビルのように思えた。入り口の横についてある看板を見ると確かにホームページで見たカフェの名前が書いてあったので間違いではないのだろう。
入ってすぐのところにエレベーターがあったのでそれに乗って四階のボタンを押す。俺と咲空を除いて他に人の出入りはなかった。
エレベーターのドアが開くと喫茶『トワイライト』扉出て右。という看板が目に入った。書かれた通りに向かうとすぐにそれは見つかった。一つの階に一つのテナントが入っている形態なので当たり前ではあるのだが。
中に入ると女性が受付を対応してくれた。彼女もホームページで見たような黒を基調としたひらひらの衣装を着ている。メイクが濃くてぱっちりとしたまつげが印象的だ。壁紙も全体的に赤や黒を基調としていて黒魔術とか怪しい組織のような印象だ。
「いらっしゃいませ、当店のご利用ははじめてでしょうか?」
女性の声は想像していたよりも低く、かっこいい印象を受けた。ダークな雰囲気と言い、そういうコンセプトなのかもしれない。
「あ、はい。こういうところも初めてでちょっとよくわかってないんですけど」
俺は正直にそう言った。
「そうですか。料金形態について説明させていただきますね」
そう言われて俺は初めて料金について見ていなかったことに気づいた。
「当店、チャージ料というものがかかりまして一時間あたり2000円が必要となります。今回は初回ということです割り引きで1500円となります。ドリンクは飲み放題となっています。それと別にメイドさんとお話しするには彼女達へのドリンクが必要となります。まあ、詳しくは席について担当のメイドから伺っていただければと思います」
「わかりました。じゃあよろしくお願いします」
普通の飲食店とは違うとはいえ、そういう店に行ったことがない俺にとっては少し高く感じられた。まあ内装や人件費が多く掛かっているのだろう。俺と咲空は説明してくれた女性について行って席に座った。
仄暗い部屋で数人のあちこちに動くドールのような女性を静かに見ているとその中の1人がこちらの方へやってきた。
「おかえりなさいm」
「あ」
仄暗い部屋でほとんど同時に互いを認知したため、メイドが咄嗟に顔を袖で隠したが俺はそれが姉であることに気づいてしまった。
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