第17話 友達になるくらいなら全然構わないが
その後、何度かメッセージを重ねるうちにとりあえず明日も同じ時間の電車に乗って話せばよいということになってやり取りが終了した。
次の日、俺が電車に乗ってしばらくすると彩の家の最寄り駅で咲空が乗り込んできた。軽く手を振って合図すると気が付いたようでこちらの方へ歩いてきた。
お互いに軽く挨拶を済ませた後、先に俺から口を開いた。
「昨日のことを要約すると、君は僕がそれをしているのを知って、教えてほしいと思い接触したが、僕はそれの方法を知らなかった。彩に関係がバレたくないのなら、これ以上お互いに干渉しないことが最も賢い選択のように思うんだが。どうなんだ?」
人がそれなりにいる電車内で女装しているという言葉を使うのが憚られたので、それという代名詞を使ったが、咲空には問題なく伝わったようだった。
「確かにそうかもしれません。でも、僕のそれを知ってるのは姉とひなたさんだけなんです……だから、できれば共通の趣味を持つ友達になって欲しいと思っているんですけど、ダメですか?」
咲空が俺の手を握って上目遣いでそういう。昨日の女装写真が思い出される、彼は俺に女装を教えてほしいと言っていたが、素人目に見ればすでに完成していたように思えた。彩に似ている部分も相まって彼女の妹(実在しない)にでも言い寄られているような錯覚をする。
「友達になるくらいなら俺は全然構わないが、ストーカーまがいのことはもう誰にもしないと約束してくれ」
多分、唯一自分のことを理解してくれる可能性のある人を見つけた嬉しさからやってしまったのだろうと思うが、万が一のことがあってはいけないので注意しておくことにした。
「その件に関しては本当にごめんなさい。二度としないようにします」
彼は心の底から反省しているように見えた。彼の環境も考慮すれば、今回の件に関しては水に流そうと思った。
それからしばらく、俺と咲空は普通の雑談をした。それらは主に学校に関することが多かった。
ちなみに、どうして姉と同じ学校にしたのか尋ねると、偏差値的にはもう少し上でも問題はなかったが、親が学校のことをひどく気に入り結構ごり押しで受験を勧められて、彼が折れたというエピソードを聞いた。
そんなこともあって、彼は部活に所属せず、塾には行って早くから目標にしている国公立大学目指して勉強を頑張っているようだった。それに関して俺は素直にえらいと思った。
「おっはー」
しばらく話していると向こうの方から声をかける男子が一人。昨日と同じ奴だった。
「あれ?水谷、この人は?」
「あ、えっと」
咲空は答えに詰まっているようだった。多分、彼から姉に俺たちの関係がばれることを恐れているのだろう。
「初めまして、咲空くんの姉と同じクラスの古町ひなたって言います。たまたま電車であったから話してたんだ」
他人の関係性なんて案外誰も気にしていない。誰かさんに先日言われたことを思い出す。後ろめたいことなんてないんだから、俺たちの関係も隠す必要ないじゃないか。万が一ばれたとしても俺から近づいたってことにすればいい。そう思って俺は咲空の代わりに彼の質問に答えた。
「ああ、そういえばお前姉ちゃんいるって言ってたもんな」
咲空が俺の方に目を向ける。俺は無言でゆっくり「だいじょうぶ」と口を動かした。伝わったようでそれ以降は少し緊張が和らいだようだった。
彼はかなりのおしゃべりのようで、咲空に多くの話題を振っていたが突然俺に流れ弾が飛んできた。
「そういえば、古町先輩と咲空の姉ちゃんってどんな関係なんですか?異性の同級生の弟なんてふつう知らないっすよね~」
咲空の友人は何かを探るような視線をこっちに飛ばす。このおしゃべりは結構勘が鋭いなと思った。
「いや、本当にただの友人さ。お姉さんと咲空くんが一緒に歩いてるところにたまたまあったことがあったんだ」
彩と咲空が不仲であることは原因が原因であるだけに友人らには話していないだろうと踏んだ。即興で考えたわりには良い言い訳ができたと自分でも思った。
「なるほど……そうだったんですか。自分、てっきり先輩と咲空の姉ちゃんが付き合ってたりしてるのかと思っちゃいました」
すでに別れていることを除けば彼の推理は大正解だった。俺は苦笑する。
「そんなわけないよ。絶対にありえないって。うちの姉ちゃんガサツだし、当たりきついし、ひなたさんにはもったいないくらいだよ」
手を大げさに振ってここぞとばかりに自分の姉をディスりまくる咲空。その姿を見て俺は彼に俺と彩の関係を伝えることはしないようにしようと決意した。
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