第11話 てっきり告白でもされるものかと


「……」


 彼女は無言で写真と俺を見比べる、いざジロジロと見られると恥ずかしい。


「あの、いきなりのアウティングで驚いている部分はありますが、その……あなたは彩のことを恋愛対象として見られなくなったということで良いのでしょうか?」


「あ、いや。それは違って、その、女装それは姉に無理やりされたもので恋愛対象は普通に女子で……ていうか、彩から別れた理由は聞いてないの?」


「なるほど、姉に無理やり……お姉さまにそう言った趣味があったということなのでしょうか?彩からは恋愛対象として見れなくなった、とだけ言われたのでてっきり彼女がそっちの気を察したのではないかと思いまして、早とちりして申し訳ありません」


 そう言って彼女は軽く頭を下げた。


「いや、姉さんの趣味とかその辺はよくわからないんだけど……。勘違いに関しては別にいいよ。俺の説明不足だし」


 そう言って少し冷めたコーヒーに口をつける。ほんのり苦いそれが口の中に広がる。話してしまうと幾分か気が楽になったような気がした。


「だとして、彩はなぜに気を病んでいるのでしょう?いまいち、繋がらないです」


「ああ、それはだな____」


 そこからの説明は自分でも少し驚くくらいにスムーズだった。写真が俺の部屋で撮影されたことを彩が見抜き、写真の相手をセフレだと勘違いして詰められたが、俺は彼女に女装したことを言い出せず、誤解されたまま彼女が帰ってしまったことをそのまま説明した。


 その間、佐々木は時々頷いたり、紅茶を飲んだりしながら、俺の話を最後まで口を挟まずに聞いていた。


「なるほど、全容は理解しました。ありがとうございます。きっと彩も分かってくれると思いますよ」


 彼女はそう言って俺に微笑みかけてくれた。それは確かにかわいくて、彼氏持ちであっても挑戦する人間が現れることにも納得できた。


「ありがとう。俺も話すことができてよかったと思ってる。そういえば、佐々木さんって付き合ってる人がいるんじゃなかったっけ?」


 話題もなくなったので、ふと思い出したことを聞いてみることにした。クラスも違う、普段であれば絶対に話す機会がない少女だったため、なんとなく聞いてみようと思っただけだった。ワンチャン狙いとかではないはずだ。多分。


「ああ、彼は東京の方の大学に行ったので別れました。多分遠距離で上手くいくような関係でもなかったので」


「え?そ、そうだったんだ」


 適当に聞いてみただけだったため、思いもよらない返答をされて答えに詰まってしまう。気の利いた返しも持ち合わせていなかったため、会話が中断される。


「自分から聞いておいて何も言わないのはどうかと思いますよ?てっきり告白でもされるものかと」


「え?いや、そんなつもりは……」


 俺がたじろぐ様子を見て大きく笑う彼女。仕草が上品だからだろうか、大笑いしているのに下品な印象を抱かせない。


「冗談ですよ。過去にこんな流れで告白してきた男子がたまにいたので。もちろん断りましたが。あなたは彩のことがまだ好きなんじゃないですか?」


「………………」


 長い沈黙。俺は彩のことがまだ好きなんだろうか。別れて以降、連絡もしていなければ、声をかけようとしたこともない。


 確かに他の彼女を作ろうとしたことはなかったがそれはあくまで傷心だったからであって……


 考えるうちに自分の気持ちがどうなのかわからなくなってきた。


「まあ、あなたの気持ちについて深く追求するつもりはありません。それはそうと、プリン、一口食べませんか?とってもおいしいので一口くらい食べてほしいです」


 そういうと彼女は俺の前にプリンの皿を突き出した。クリームがかけられたちょっとだけグレードの高いプリン。半分ほど食べられていたものの、くずれそうでくずれないギリギリのバランスで立っていた。


 断ろうかとも考えたが、もうすでにプリンが手元にある以上返すことはかえって彼女に悪いのではないかと考えた。スプーンはどうするべきか迷ったがコーヒーとは別に一本取り出すことにした。


 さて、どこにスプーンを入れるべきなのだろうか。彼女が口をつけた場所であればそれは言うまでもなく間接キスを意味する。かといって真逆の部分にスプーンを入れると見栄えが悪くなってしまうのではないか。


 長考した結果、俺はプリンの土台の目立たない部分にスプーンを入れて一口食べた。間接キスではない部分である。


「あら、下のほうを食べたのですか?カラメルとクリームがおいしいのに。その部分を一口食べてみてください」


 どうやっても間接キスになる状況に追い込まれる。スプーンを何本も出すわけにもいかないし彼女は気にしてなさそうなので一思いに上の食べかけの部分をすくって食べた。


「どうですか。おいしいでしょう?」


「うん、おいしい」


 適当な相槌を打ちながらも、脳内は目の前の美少女とおやつを共有したことに頭がいっぱいになっていた。


 その後は特筆すべきイベントもなく、駅に着いたところで別れた。ちなみに、お金に関しては、俺が席を離れたタイミングで彼女が払ったらしく、飲み物代を渡そうにも受け取ってくれなかったため、約束通りに彼女におごられる形となっってしまった。

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