第7話 俺はかわいすぎたようです

 始業式から一週間が経ち、新しいクラスでの生活も落ち着いてきた頃。昼休み、購買で買ってきた昼食を食べ終わった俺が教室で友人たちと喋りながら、適当にスマホを触ってる時にそれは起きた。


「なあ、最近ツイッターでめっちゃかわいい子見つけた。見てみ」


 俺の友人の一人、未央はモデルや女優にやたらと詳しい。最近は本人曰くブルーオーシャンな素人の掘り出しに勤しんでいるとのこと。


 俺にはよくわからない世界であるが、確かに彼の教えてくれる女の子はどの子もかなりレベルが高い。唯一の問題はそんなことしているからか女子とは付き合えないことくらいだろうか。


「おー、超かわいいじゃん」

「今まで見た一番好きかもしれん」

「俺もフォローしよ」


 友人らの反応を見るに、今回の女の子はかなり評判がいいらしい。


「ほら、ヒナタも見ろよ」


 そう言って彼が見せてくれた写真。


 めっちゃ俺だった。


 思わず二度見する。変わらずそこには俺がいた。


「どうした?ヒナタ。なんかおかしいぞ?」


「いや、なんでもない。その子の制服、姉さんの母校だなって思っただけ」


 俺はなんとか誤魔化そうと適当に思いついたことを言う。


「そういうことかー、羨ましーな。俺も姉ちゃん欲しかったなー。姉ちゃんの制服とか着てみてー」


 ごふぅ、と盛大に水を吹き出してしまう俺。落ち着くために水を飲もうとしたら完全に裏目になってしまった。


「きったねーな。どうしたんだ?そんなに面白かったか?」


 冗談がウケたと思って上機嫌な未央を尻目に、俺は生きた心地がしなかった。何が絶対バレないだ。姉さん、俺はかわいすぎたようです。


 友人らは、キショ、着るはないだろ、せめて嗅ぐだよな、なんてくだらないことばかり話している。流石に画面に映る女と俺を結びつけることは出来なさそうで安心した。


「すまん。冗談が生々しくて、つい」


「そうか、なんかすまんな。ていうかワンチャンお前の姉ちゃんの知り合いってことないかな?」


「姉さん4歳上だから接点ないと思う」


 知ってるも何もそれ俺だよ。なんてことが言えるはずもなく、適当にお茶を濁す。姉がテニス部なことを言ってなくてよかった。


「はー、ひなてゃちゃんマジ天使」


 そう言いながら彼は画面にキスするような仕草を見せる。やめてくれ、本人がここにいる。


 そんな馬鹿なことで盛り上がっていたところ、一人の女子がやってきた。


「何やってんのー?」


 小さな身体、綺麗に切り揃えられたボブカット、小動物のような印象を受ける彼女の名前は水谷あや


「おう、この子かわいくね?って話してた」


 そう言って未央が彩にスマホを見せようとした時。俺は反射的にその手を止めてしまった。


「何やってんだよ、隠したってひなてゃちゃんはお前のものにならないぞ」


「ああ、悪い。なんでもない」


 そう言ってしまっては俺はもう何もできない。彼を止める手段を俺は持ち合わせていなかった。


 彩にひなてゃが見つかることと、ひなてゃが自分であることがバレるリスクを天秤にかけるなら、流石に後者が優先されるべきだと判断した。


 しかし、彼女にだけはどうしても自分の女装を見せたくなかったのも事実であった。なぜなら、彼女は俺の元カノなのだから。


 俺と彩が付き合っていたことを知るものはほとんどいないというか俺は姉にしか話していない。だから当然、今このグループに彼女と俺の関係を知る者はいない。


 まあ、他の人と話す際に積極的に横槍を入れるわけではないから、彼女との会話の際に俺が口を挟まないことに違和感を持つ人はいないはずである。


 未央と彩がスマホの画面をみて色々と話している。彼女がその写真を見たとき、一瞬俺の方を見た気がするがそれは気のせいであると信じたい。


「ごめーん、雑談しにきたんじゃなくて未央くんが課題を出してないことの注意をしにきたこと忘れてたー。ちゃんと出さないと先生に怒られるよー」


 彩は数学の教科担当で課題の提出状況の確認などを行なっている。多くの学生は課題を出さない人間に対して警告などは行わないのだが、彼女は責任感が強いのかそのような生徒に対して積極的に声かけを行っていた。


 未央は、次にまとめて出すから、なんて言って手を合わせて謝っていた。そんなこんなで彼女は俺たちの元を去っていった。


「なんやかんやでアイツもかわいいよな」


「なんかわかる。一緒にいて楽しそう」


「それよりも未央は課題出す気あるのか?」


「あるわけないだろ」


 誰かがボソッと言った言葉で彩のことに話題が移りそうだったので課題の件で無理矢理軌道修正をする。


 そんなこんなで昼休みが終わった。午後の授業中、彩がやたらとこちらを見ている気がしたが、俺はたまたまであると自分に言い聞かせていた。

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