第40話 王手

 カッっと光るとギザギザの稲妻が眼に焼き付く、遠くでドーンと音がした。


「遠いな」

「そうですな」


 法師と侍が縁側で将棋を指す。雨がふりはじめるともう暗い。雨戸を開けて将棋を続ける。


「蒸すな」

「蒸しますな……」


 法師は眼が見えないが将棋盤の大きさと、駒の手触りだけで勝負ができた。


「勝てばおぬしの娘をもらうぞ」

「勝てますかな」


 侍は法師の美しい娘が欲しかった、法師の将棋好きを知って策略を立てる。眼が見えないならば、駒をごまかせる。


 十数手もすると駒の配置は複雑だ、侍は駒を打つなり法師の駒を音を立てずに抜いた。


(これで勝てる)


 持ち駒が増えれば王手で詰められるが、いきなり庭が光ると轟音がした。庭の木に雷が落ちたのか松の木が真っ二つだ。


「王手、詰みです」

「なんだと……」


 詰み筋を見逃したのか、侍は負けた。


「雷でそれどころじゃない」

「それとこれとは別です、勝負の金をいただきましょう」


 侍はぐっと力をこめて刀で一閃すると法師を斬り殺してしまう……


xxx

 

「それで父は……」

「庭の木が雷ではじけた、その破片が運悪く当たったようだ」


 美しい娘も眼が見えない。死因を知る事ができなかった。侍は法師との勝負で勝ったと嘘をつく。


「わかりました、父がお約束をしたならば……」

「さぁ部屋にあがれ」


 座敷に通すと、なぜか将棋盤がある。しまったはずだが……娘が将棋盤の前に座る。


「だれだ、ここに置いたのは……」

「蒸しますね」

「雨だからな」

「将棋を指しましょう」


 娘はすっと一手を指す。侍も将棋好きだ、興味半分で勝負をはじめると……法師の差し手と同じ。


「私の勝ちです」

「まだわからぬ」

「いいえ詰んでおります」

「どこが詰んでいる」

「駒を抜いても……お前は……負ける」


 侍が顔をあげると法師が座っている。仰天した侍が刀をとって抜いた。法師が逃げるように庭にでると、雨がふりはじめる。


「迷ったかぁ」

「王手です」


 稲光が侍を撃つ、抜いた刀に雷が落ちると、体は左右に裂けた。


「あああ、眼が……眼が見える……」


 かすみボケていた眼が雷のせいで見えるようになる。娘は雨ふるなかでかたきを凝視しつづけた。

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