第39話 放課後ランプ

 放課後ランプを持って薄暗い階段を降りる。階段の踊り場にある大きな姿見が私をうつす。


「変な顔……」


 キャンプ用のLEDランプはミカン色であたたかく感じる。


「なにしてる」

「先生……」


 そろそろ定年の担任が私をじっと見ている。


「鏡に興味があるのか」

「別にないです」


 数年に一度、学校から女生徒が消える。鏡に吸い込まれたと噂になる。夕暮れで薄暗い時間に誰にも知られずに消える。


「俺も定年で引退だ」

「……さみしくなりますね」

「俺はさみしくないよ」

「そうなんですね……」


 今も私をじっとみている。


「なぜ鏡を見たいんだ」

「……なんかもう嫌になって」

「そうか……数年に一回は、お前のような生徒が来るんだ」

「……」

「鏡の中に入るか?」

「……え?」


 私の腕をつかむと先生が鏡の中にすっと入る、腕だけ外にあって私をつかんでいる。


「中は楽しいよ」


 腕をふりはらって私は逃げた。先生はそれっきり姿を見せない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る