第37話 三日月ファストパス

 手渡されたのは『三日月ファストパス』と書かれたチラシ。繁華街の雑踏で無意識で手にした。


(三日月があなたを魅了します)


 書かれているのは、日時と場所だけで近くの公園だった。


(深夜なのか)


 冗談みたいなイベントに興味を持つ。どんなイベントなのか……深夜の公園には、まばらな客がいた。


 ギターを持った少女は歌う、魅了された観客は身動きしない。


(悲しい歌だな)


 ♪終わる世界はすぐ

 ♪だれも気がつがない

 ♪平和を愛して

 ♪平和になれて

 ♪平和を憎む

 ♪平和さえなければ、きっと幸福しあわせ

 ♪平和を誰も願わない

 ♪平和はもう来ない


 曲が終わると観客が公園の遊具にロープを結びつけて、首を吊った。


「あら、あなたは死なないんだ?」


 未成年にしか見えない少女はギターを抱えて笑っている。しばらく俺の顔を見ると納得したようにつぶやく。


「心が死んだ人間には、響かないわね」


xxx


 動画であの曲が流れる。自殺率が増えているらしい。でも何も変わらない。みんな俺と同じで、心が死んでいるから……

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