第33話サーカスの馬【りんご箱】 #シロクマ文芸部 ※悲しいので注意

 りんご箱に子馬が顔を入れる、器用にりんごを箱から取り出すとカリカリとかみ砕く。


「めんこいの、まふゆ」

「ゆり、お別れだから」


 父親が少女の手を引くと馬小屋から連れ出す、子馬は売られてしまうので、おいしいリンゴをあげた。真っ白な子馬だから、まふゆと名付けた。


「サーカスに売られるの?」

「珍しい色だからな、きっと人気になるさ」

「サーカスって怖くない?」

「怖くないさ、怖くない……」


 歯切れの悪い父親の顔を見ながら少女は心配になる。


xxx


「ゆりさん、ゆりさん」

 夜中に誰かに起こされる。布団で目を覚ますと畳の上に、まふゆが立っている。


「まふゆ……家の中に入っちゃ駄目でしょ」

「最後の夜なので、お散歩しましょう」

「まふゆに乗るの?」

「そうです、森に行きましょう」


 暗い夜に真っ白な子馬に乗る、少女を乗せた子馬は壁を突き抜けて、星空の世界をかけめぐる。さらさら流れる天の川、ピカピカ光る金星、土星の輪の上を走って回る。


「まふゆ、楽しいね」

「私はサーカスに売られます、こうやって毎日走ります」

「私も走りたい」

「では交代しましょう」


xxx


 目が覚めると馬小屋だ、目の前にりんごの箱があるので、長い顔を入れてカリカリと食べる。甘くすっぱいリンゴは、とてもおいしい。


「まふゆ、そろそろ、ゆりを連れていくぞ」


(あ! おとうさん、おとうさん、私はどこに行くの?)


 栗毛色くりげいろの子馬は、真っ白な髪の少女に連れられてトラックに乗せられる。


 悲しそうな子馬は、少女と父親を見ながら涙を流す。


(おとうさん、おとうさん)


 トラックは出発する、子馬は泣いている。いつまでもいつまでも見送りながら、まふゆの目から涙があふれる……


(ごめんね)


 そっとつぶやいた。

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