第31話 ベランダ霊 #爪毛の挑戦状

 ベランダに子供の霊が居た、今は居ない。


「事故物件なので安いですよ」

「はぁ……お化けでも出るんですか」


 営業マンは笑顔のままで首を横にふる。お化けなんていません、一家心中した部屋なので安いんです。3LDKで家賃は1LDK並みだ。広い部屋が欲しかったのは、恋人が出来たからだ。


「きれいだし、ここでいいわ」

 OLで仕事場に近い彼女は同棲するための部屋を探していた。これだけ広ければプライバシーは守れる、部屋をひとつずつ使っても余る。即決した。


 すくない荷物を設置するが、がらんとしている。さみしげな部屋を見回しながら、ここの家族がどんな理由で死んだのか気になる。俺はベランダ側の部屋でPCを使い事件を調べた。


「母子がベランダから飛び降りか……」


 父親からのDVでベランダに逃げた母子が十階のベランダから落ちた。娘と母親は即死、父親は自殺した。


「ベランダか……」


 そう考えると不気味にも思えるが、気のせいだ。人類が生まれた時からどれほどの人間が死んだのか? もし幽霊が居るなら地上は幽霊だらけだ。


xxx


「ベランダのゴミをかたづけてね」


 俺は黙ってうなずく、同棲してから気がつく。彼女は神経質だった。やたらとルールを作り掃除や当番を決めたがる。俺はフリーで自宅で仕事をしていた。自然に俺が家事当番が多くなる。


「ベランダのゴミ?」


 ベランダでゴミなんか出さないし、この高さだと風で飛んでくる事もない。俺はベランダを見ると、お菓子の箱が落ちていた。子供が食べるようなかわいらしい絵柄のパッケージ。


「上の階?」


 すぐ上は屋上だ、屋上から放り投げるのも無理に思える。


 俺は黙って箱を拾ってゴミ箱に入れた。


xxx


「ゴミ、まだあった」


 怒りの目で俺を見ている。神経質な彼女に俺は一緒に暮らすのは無理と思い始めていた。俺は黙って箱を受け取ろうとすると、怒ったように彼女はゴミ箱に叩き入れた。俺はゴミ箱を見る。お菓子の箱は無かった……


 彼女は自分の部屋で眠っているので実験する。ベランダにある菓子の箱をゴミ箱にいれて確認する、ゴミ箱にない、ベランダに置いてある。


「怪奇現象かな……」


 俺は試しに他のゴミを捨ててもベランダには転送されない。菓子の箱だけだ。深夜にコンビニで同じ菓子を買って、ベランダに置いてみた。


 まっくらなベランダで手だけが見える、子供の手はお菓子の箱を開けて中身を取り出した。死んだ子供の幽霊だと思うが実害を感じなかった。中身が無くなった箱は取り去ってもベランダには戻らない。


「事故の場所にお菓子とかおもちゃを置くのは、このためか」


xxx


「はい、鍵」


 俺は受け取ると引っ越す彼女を見守る。話合いで別れた。誰が悪いわけじゃない。なぜか彼女が引っ越すとベランダの幽霊は消えた。幽霊でも居るとさみしくなかったのに……


 数日後に彼女から電話が来る、妊娠したと聞くと俺は結婚してくれと自然にプロポーズしていた。彼女は中絶するつもりだったが、熱心な俺に最後に折れた。娘が生まれて大きくなるとベランダにお菓子を置くようになる、理由を聞いても判らない。


「ここで食べてた記憶あるの……、お父さんとお母さんが喧嘩ばかりしてたから」

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