第28話 庭を食べる 爪毛シリーズ

 庭の写真を撮ると違和感を感じた、昔取った写真を持ち出して夫に見せる。デジタル写真とアナログ写真を見せると、旦那は怪訝そうに見比べる。


「この写真なんだけど……」

「うちの庭だ、狭いけど」


 自宅の庭の周囲はビルの壁しか見えない。昔は周囲は普通の一軒家だったが、今はまわりは取り壊されてマンションが建っている。最後に自分の家の庭の周囲がすべてマンションになる。日当たりが悪すぎた。


「なんか妙なの、狭く感じて……」

「そりゃそうだ、十階建てのビルだからな」

 

 頭では理解をしていても違和感は消えなかった。


xxx


 ある日、花壇が消えていた。狭いけど30センチ幅の花壇だ、夫が壊さない限りは消えるわけがない。だが壊されているなら残骸が残る筈だ。痕跡すらない。壁だ、マンションの壁が動いていた。


「あなた大変よ、庭が、庭が食べられてる! 」

「庭を食べる? 」


 夫が笑いながら庭に出るが、何が問題なのか判らないと言う。

「ちょっと神経質だぞ」


 それからは徐々にマンションの壁が迫ってくる、写真を撮って見せても夫は判らないと言うばかりで、私はマンションの管理会社に電話をする。

「判りました、調査してみます」

 マンションが地下水の影響などで地盤沈下が起きて周囲に影響を与えているかもしれない、だが測量しても変わらないと言う。


 夫は精神的な問題かもしれないと引っ越しの準備を始めた。


xxx


「そろそろ行くぞ」

 引っ越しの日だ、私は信じられないくらいに狭くなった庭を見る。すでに庭ですら無い、マンションのベランダ並の広さだ。でも誰も騒がない、私が狂っているのだろうか?


 最後に庭に出る、あそこにパンジーを植えた、ここはスミレ。でも今は壁の中だ。私は諦めて振り返ると目の前に壁がある。


 四方を見回すとすべて壁しかない。

 私は絶叫をあげながら壁を叩く。


「旦那さん、奥さんは?」

 引っ越しの運転手が夫の顔を見る。


 彼は首を横にふると

「俺は結婚してないよ」


※爪毛シリーズは、タイトルから小説を作る枠です。

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