第26話 坂道

 ただ歩く、彼女が黙ってうつむいている。別れは決定事項で、どちらかが言い出すかだけだ。まだ愛する気持ちはあるのに、離れたかった。


「なにが悪いの? 」

 ただ歩く、彼女は理解している筈だ。お互いの気持ちがズレている。彼女が俺に理想を押しつける。耐えられない。


「俺が悪い」

 ただ歩く、謝罪しても意味が無い。自分を悪い事にして彼女の負担を減らしたい。偽善で欺瞞で薄汚い行為でも、その言葉が無ければ傷が深くなる。


「知ってた、愛してないよね? 」

 ただ歩く、束縛と理想に寒気がする。俺に何を求める、俺は神か? お前は俺に満足しない。


「ここで告白されたの、覚えてる? 」

 誰も通らない坂道を、ただ歩いた。そんな幸せの場所で彼女は立ち止まる。


「すてきな夕日よね? 」

 くるりと振り向いて、俺を憎悪の眼でみる。白いガードレルに座って、そのまま崖下に向かってダイブする。


 ただ歩く、この高さで落ちて無事とは思えない。俺は走らない、ただ歩く幸せを楽しむ。

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