第16話 馬鹿の壁

「なんで俺が捕まるんだよ」

 取調室で空き巣が騒いでいる。あきれ顔の若い刑事が監視カメラの録画シーンを見せる。空き巣は窓を破壊する前に、素顔に何かを塗っている。


「これはお前だろ?同じ顔だ」

「監視カメラは偽物だ、俺は空き巣に入る前に馬の糞を塗ったんだ」

 ベテランの刑事が空き巣の肩を叩きながら、なぜ靴墨ではなく糞なんだと聞く。


「馬の糞は顔を変化させられるんだ、これは俺じゃない」

「どっからそんな話を聞いた?」

 同席している精神鑑定の専門家が説明をした。

「ダニング = クルーガー効果ですね、馬の糞で変身できると本気で信じて実行した  だけです。彼は自分は頭が良い事をしていると勘違いしたようです。」


 ベテランの刑事が空き巣を呆れて見ながら空き巣の肩を叩く。

「はぁ…そんなもんですか…精神的な問題は無いんですね?じゃあ刑務所行きだな」


 若い刑事が笑い出した。

「バカは自分でバカであることに気づけないんですね」

 げらげら笑う。


 空き巣はぽつりとつぶやく。

「お前らもキリストを信じてるよな?」


 その場に居た全員が怒り狂う。神を冒涜するとかお前は何様だ。罵倒と批判の怒号が充満する。空き巣は落ち着いた表情で笑っている。不気味な雰囲気に全員が黙る。


 空き巣は顔をつるりとなでた。凶悪な顔が現れた。悪魔だ。彼が取調室の床を破壊して全員を地獄に落とす。

「だから馬の糞で人になれるんだよ」

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