第15話 本当は叶ってほしくない願い事がある。

本当は叶ってほしくない願い事がある。彼の幸せだ。彼が幸せになると私が不幸になる。


「別れてくれ」

彼は何回も頭を下げる。離婚してくれ。浮気相手に子供が居る。金は払う。家もやる。俺は家族を持ちたい。お前じゃダメなんだ。


私は泣きもしないで彼を見る。黙って見ている。私を彼は恐ろしそうに見る。最後は怒鳴る。


「お前はいつもそうだ、何も言わない、何を考えているか判らない」

私にも判らない。幸せが何か判らない。彼が怒る理由も判らない、自分がどうしたいのか不明だ。私はきっと他人が幸せになるのが耐えられない。自分が幸せなのを実感できないから……


寝ていると苦しくなる、目を開けると夫が私の首をしめていた。私は苦しいが黙って見ている。夫は良心の呵責でいつもやめてしまう。私を殺せない。弱い男だ。


「あんたが居るから」

怒鳴りながら私を罵倒する、殴る時もある。頬をぶたれる。ひどく痛いが我慢する。血が流れる。近所の人が警察を呼んだ。彼女は連れて行かれた。


「奥さん、大丈夫?」

「旦那さんと話さないと」

近所の人達は私に同情している。当たり前だ。罵倒されて傷をつけられたのは私だ。私は心のどこかが暖かくなる。

「いえ私も悪いんです、夫の事を理解できなくて」

みなが私に同情する。


旦那と浮気相手は子供を連れてダムに飛び込んだ。車が見つかる。無理心中だ。幼い子供はまだ二歳くらいでかわいい盛りなのに、かわいそうと感じる。


家に戻ると旦那が居る。恨めしそうに私を見ている。浮気相手の女も子供も居る。みなが私を見る。私が悪い。お前のせいだ。元凶はお前だ。


浮気をしたのは誰なのかしら?子供まで作って殺したのは誰なのかしら?私は笑い出す。人のせいにしか出来ない奴らが私を見ている。ゲラゲラ笑い出す。こんなに楽しい事は生まれて初めて。


私はマッチングアプリで若い男と交際する。部屋に呼んで行為を見せつける。幽霊はそれを黙って見ている。何も言わない。まるで昔の私みたい。


たまに霊感があるのか男が文句を言う。

「なんか部屋が寒くないか?」

「気のせいよ」


今は最高の気分で生きている。


終わり

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