第14話 骨董品の人形

見知らぬ土地で散策するのが好きだ。出張でホテルの部屋を取ると商店街に飯を食いに行く。やたらと寂れた街の閑散とした商店街はシャッターが多めだ。飯を済ませると商店街の中で奇妙な店を見つけた。


「骨董屋?」


今時そんな店が残っている事に驚く。中は雑多な代物で埋まっている。壺や掛け軸や古い時計。大半は陶器製の茶碗や皿だ。昔は貴重なものだが買う人はもう居ない。


その中に人形がある。


赤と白のドレス姿の子供が座っている。自分は娘が居る。いかにも小さな子供が好きそうな人形だ。気がつくと店主と話をしていた、手付金を渡すと、異様に安い。私は出張の終わりに持ち帰る。


「これ何?」

まだ小さな娘だ。小学四年の娘は人形を怖そうに見ている。妻が一目見て喜びの声をあげた。


「これ貰ってもいい?」

娘は黙ってうなずく。子供に渡すつもりが母親の方が熱心だ。


「ロマンドールね」

妻は詳しい。日本は昔から市松人形があるが別物だ。市松人形は布でロマンドールは紙粘土を使う。紙粘土製は日本発祥らしい。嬉しそうにチェックしていると妻が足の部分を見せる。


「ここ壊れてるわ、私が修理してみる」

足にヒビがある。安い理由が判る。中古品だと言うと妻は納得する。ネットで材料になる紙粘土を購入していた。


仕事が終わり家に戻ると娘が不満そうな顔をしていた。

「ママが夕飯を作らないの」


部屋に入ると熱心に人形の修理している。そして服も作り始めていた。

「夕飯はどうした?」

「デリバリーを頼んでよ」


家事はしなくなる。部屋に閉じこもる。寝ていない可能性すらある。妻は夢中で人形のために服や家具まで作り始めた。ドールハウスも作る。部屋は材料で埋まる。言葉をかけてもうなずくだけで会話すらできない。


病気と判断して医者に診せる事にしたが、部屋から出る事も拒否をした。彼女の両親と協力して人形から遠ざけようとすると暴れた。そして包丁を持ちだして威嚇するようになる。警察と連携して病院に入れる。


私は妻の部屋から人形を見つける。緻密な服が着せられていた。どれほどの労力なのか想像もできない。私は怒りのためか人形を強く握りつぶしていた。紙粘土がばらばらと床に散らばる。


紙粘土の体は空洞だ。人形の残骸と一緒に紙片が落ちている。指でつまむと畳まれていた。開いて中身を見た。


「△□○×さん、好きです」

女子同士の恋のおまじない。こんな単純なものでも年月が経過すると強い呪力になる。妻を狂わすくらいの呪い。残骸を包んで人形を供養する寺にあずけた。妻は人形を壊した日に正気に戻っていた。


終わり

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