第13話 浴槽とネズミ

※注意 陰惨な描写があります。


血まみれで汚れている浴槽を洗う。俺はラブホテルで働いている、客はいろいろなプレイをするので清掃は定期的にしなくてはいけない。昼も夜も使うのでタイミングが難しい。もし本格的に洗うなら休室にする。オーナーはやりたがらない。客を入れないと損だからだ。「浴槽が血まみれだ」支配人は俺を呼び出すとすぐに清掃しろと命令をした。


俺は女房と別れて自暴自棄になり、職業を変えながら今の仕事をしている。薄給だが人と接する事が少ない。だからどんな汚くても辞めるつもりは無い。部屋に入ると「どんなプレイだよ」と絶句する。空の浴槽に血がべっとりとついている。薬剤を使いながら念入りに洗う。「せめて流せよ」排水口も汚れているが、時間がない。すぐに客を入れないといけない、軽く洗うと終わりにした。


ラブホテルだとたまに部屋が汚物まみれの場合もある。俺はアルバイトのおばちゃんと掃除もする。まぁとにかく汚い。人の性癖に文句は言わない。それでもこの仕事はきつい。「洗面台に、でっかいネズミが居たよ」休憩室で俺の顔を見ながら、バイトのおばちゃんは報告する。バリバリと煎餅を食べてる、食べかすが床に落ちる。俺はそれを見ながら指さすと「ネズミのエサ?」と言って笑う。「あらやだ、掃除しとくね」と平気な顔だ。


出社すると、ロッカーの上からネズミがこっちを見ている。「図々しいな」人間が居ても怖くないらしい。俺は持っている新聞を投げつけた。「客がネズミを見たと言っている」支配人は俺を睨んでいるが、俺に苦情を言われても困る、ねずみ取りを使うか、業者に頼むかしかない。殺鼠剤を使う事にした。


俺は、どこに殺鼠剤を設置するか考えた。地下なら客には見えないだろう。しばらく使っていない地下に降りると、ごそごそと音がする。地下室の電気をつけるとネズミが壁の穴に消えた。壁の腰あたりにこぶし大の穴がある、ネズミはそこに消えた。「なんだこれは?」中を見ると暗い、ただ動物の気配はしている、ネズミがかじったのか穴が深そうだ。「これは業者に頼むか」


「ゆきえ」たまたま俺は地下室から出た時に、元女房と出くわした。俺を見ると馬鹿にしたように笑う、若い男と部屋に行く。年収が低い俺から逃げるように離婚をした。俺は何も感じないと思っていた。でも嫉妬を感じる、かなり強く感じる。怒りになると俺はもう止められなかった。フロントからマスタキーを取り出すと、使用中の部屋に向かう。用具入れから持ってきたモップで男を滅多打ちする。


女房は恐怖で凍りついているが怒りの表情で「あんたは死刑よ」と静かに冷たく宣告する。「だろうな」自分の怒りはどこか来たのだろうか?元妻を殴ると昏倒した彼女を地下室まで連れて行く。しばらくするとネズミ達が出てきた。俺は叫び声を上げている彼女を置いて部屋に戻る。ホテルの浴槽に湯をためる服を脱いで湯につかる。とても気持ちがいい。ネズミが洗面台の鏡の所から俺を見ている。


「おまえらは人間の血の味を知ってるのか?」こいつらはプレイをしていた人間の血や汚物で生きていたのか。俺は浴槽から半身を起こすとネズミを見つめる。どこか遠くでパトカーのサイレンが聞こえた。

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