第9話 実話怪談 落ち武者

※性的な表現があります。


夕方に車に彼女を乗せると、肝試しに行く。彼女は怖い話と廃墟探検が好きだ。俺は彼女に、これから行く場所の説明をした。

「実話怪談?」

彼女はうっすら笑いながら俺の顔を見る。もう二十年以上前だろうか怖い話を実話怪談として紹介する場合が多い。昔の怪談は番町皿屋敷や四谷怪談のように侍が居る世界を描いていた。


それと区別するように現代の怪奇現象を語る場合は実話怪談と呼ばれる事がある。ただ実際は、幽霊の話に太平洋戦争の頃の兵隊や武士の幽霊の話が紛れ込んでいる。恨みは永遠なのだろう。


「この先の私有地で落武者の幽霊が出る」

俺は彼女に説明をする。いい加減に腐れ縁で良い所も悪い所も許容していたつもりだった。自傷癖のある彼女は扱いが難しい。俺は我慢できない自分を誤魔化せない。何回か別れ話をすると猛烈に反対をする。泣いて喚いた罵って最後はキスしてセックスをする流れが続いた。


彼女はその美しさと行為のテクニックで俺を虜にしていると勘違いをしている。単に生理的な反応なだけだ。一時的に愛する事は出来ても長くは続かない。


日が暮れ始めた。空が暗くなる。私有地へ行く道にはバリケードが存在する。二メートルくらいのスチール製の金網で閉じられている。鍵の部分を見ると壊されていた。有名なスポットなので侵入者が壊してしまう。


車を止めて彼女と降りると金網の入り口から入る。彼女は上機嫌だ。俺は彼女をある場所で殺して自殺にみせかけるつもりだ。携帯は家にある。車はレンタカーで彼女に借りさせた。一人で運転して、別れ話から自殺をしたと証言をするつもりだ。


「ねえ 私を殺すんでしょ?」

殺意は消せない。俺も彼女もここで何をするか理解している。

「なら なんでついてきた?」

俺は疑問を口にする。彼女の罠の可能性を失念していた。もし彼女が俺を殺す段取りをしていたら?冷や汗が出る。


「殺すなら 最後にしてよ」

彼女は俺を挑発する。自傷の延長なのか?彼女は前から別れるなら殺してくれと頼んでいた。自殺してくれるなら問題は無い。俺の目の前で死んだと証言すれば良い。


俺は死の間際の彼女がスパークのようにきらめいて見える。強烈な衝動が走ると俺は彼女を押し倒す。もどかしくベルトとパンツを下げる。勃起した陰茎は普段より硬く感じた。俺は……彼女の腰を浮かせようとした。視点がくるりと回ると最後に見たシーンは彼女の下着の色だった。


「ここは実話怪談じゃなくて、本物が出る場所なの……」

鎧武者が立っている。抜き身の刀は暗闇の中で白く輝く、女の首をはねると俺と彼女の首を持って歩き出した。もう俺は幽霊なのだろう。行き先には無数の生首が木の枝に吊されている。笑っている首や泣いている首、怒っている首で騒がしい。俺と彼女の髪の毛を結ぶと枝にかけられた。


「これでずっと一緒ね」

彼女は最高に美しく見えた。体さえあれば今すぐに愛したい。


終わり

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