第8話 五十年前の事件の後始末

「暑いな……」「暑い言うなもっと暑くなる」「お前も暑いつうてるだろ」「やめろ暑いわ」ざわざわと十二畳くらいの場所で町内会が開かれる。もう年寄りしか居ない。「今年はやるのか」と誰かがつぶやく。


ぴたっと雑談が止まる。「もうそんな事はしなくていいだろう」町内会長がゆっくりと言葉にする。

皆がうなずく

「そうだな時代が違うからな」

「そもそもやらなくても何も起きないよ」

「でも何か起きたら……」

じわりと空気が重くなる。熱帯夜で体が冷めない。誰かが笑い出す。

「考えすぎだよ」


軽い笑い声が部屋を満たした。供養と言うのは、この街で起きた連続怪死事件だ。若い男女が連続して死亡をした。みな自殺と言われているが、自殺の原因がそもそも不明確すぎた。呪いと言われた。町内会ではしばらくは供養を続けたが、五十年以上は前の話だ。昔ながらの方法で供養していた。


最近では体力も無い老人達は、供養が難しくなってきた。「神主さんは呼ばないのか?」「今年はやめとうこう」町内会はそこで終わる。


「会長さん 今年はやらないのか」ずっと黙っていた男が町内会長に聞く。「ああもう呪いとかないよ」心細げにつぶやく。男は「みんなクラスメイトだったよな?」と聞いた。


誰も居ない集会所に男と町内会長だけ残る。男は「あいつらは、英子にひどいことをした 俺は今でも許さない」つぶやく言葉は憎しみがあふれる。


「英子は自殺だ 後は自責の念であいつらが自殺したんだ」ムシムシとする熱帯夜は、虫の声ひとつしない。「あ あいつらがみんな悪いんだ」町内会長は手が震える。「俺には関係は無い」


「そうか………」男はそれだけ言うとくるりと回ると、そこに居る女性に声をかけた。「もういいよ 供養はしないってさ」男は妹にそう告げると、集会所を出て行く。


集会所の中でしばらく音がしていたようだが、かすかな音だ。兄はそのまま家に戻る。翌朝に集会所で首つりをした町内会長が発見された。自殺で処理をされる。


英子の兄は仏壇の線香に火を灯すと両手を合わせて祈る。「お疲れ様」


終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る