第3話 金魚すくいなんて、やめときゃよかった。

縁日の金魚はキレイでかわいい。赤い金魚が泳いでいるだけで楽しく見える。自分もすくってみたい。飼ってみたい。誰もが思うだろう?君たちは間違っている。生き物の世話はとても大変だ。水質や水槽掃除とエサやりと水替え、そしてフィルターの取り替え。どれほど大変なのかを知らない。


夜店で気軽に金魚すくいをしたが一匹も取れない。ムキになって十回は失敗する、”ぽっい”が破ける。あの丸い金魚をすくう道具は”ぽっい”と呼ばれている。水に濡れるとヨワヨワだ。深い所に居る金魚なんて、すくえない。諦めると「ほらおまけだ」金魚屋のおっさんから黒いデメキンを貰う。家に戻って金魚をバケツに入れる事にした。水道水を入れて金魚持ってくると「おい そのまま入れるな馬鹿」


デメキンが口をパクパクさせて文句を言う。「水道水はカルキがあるだろ、俺が死ぬわ」でも透明なビニール袋のままでは狭い。「レモンを買ってこい」金魚に言われるままに買ってくると「バケツに入れろ」と指示される。レモンの皮をむいて輪切りにしてバケツの底に沈めた。


「うん もういいぞ バケツに入れろ」金魚を入れると次は水槽の大きさや底砂などを矢継ぎ早に指示される「最初はAmazonの金魚セットでいいから用意しろ」


三十センチ水槽を買うと空気を入れるポンプや水が滝のように流れるフィルターをセットする。「おい 照明ないだろ? 水草のために買え」後から後から金を払う事になる。デメキンは満足げに泳いでいる。そのうち大きくなる。そもそもデメキンもでかくなる。でかくなる時は三十センチくらいになる。もちろん水槽に入らなくなる。


デメキンが「狭いな」と文句を毎日言うようになった、いつものように会話していると「ちょっと狭いから出るわ」金魚が水槽からよっこらしょと外に出る。黒いヌメヌメした体は水分を含んでいるのか乾燥しないようだ。


ソファにピョンと飛び上がって座る。器用に座ると「この部屋は湿度が低いな」文句を言いながらエサを要求する。小皿に金魚のエサを入れ出すとひれを使ってポリポリ食べる。数日たつと水槽から出たせいか、どんどん大きくなる。普段は風呂場で泳いでいる。居間でエサを食べてる時もある。床がべちょべちょだ。既に人間大の大きさだ。


食費代がきつくなる。「エサを減らせないか?」デメキンがでっかい目玉でこっちを凝視すると「これだから人間は」とため息をついた。「最後まで面倒を見られないなら飼うな」ひれで俺の肩をポンポンと叩く。


翌日にはデメキンは消えていた。家出したのだろうか?ペットロスで涙が出る。金魚すくいなんて、やめときゃよかった。

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