第12話 優雅な毎日
とうとう聖歴4508年最後の日、家族が珍しく一日休みの日だ。最近は年末ということもあってか、大臣の仕事をしているお父様とお父様の代わりに当主代行をしているお母様は忙しそうにしており、家族が食事の席に全員揃うことがあまりなかった。
ジュリは学園の期末試験が終わるまで屋敷に帰ってこれなかったので49日にやっと帰ってきたところで、ルスは裏の仕事が忙しかったのか最近は顔すら見ていなかった。他の兄弟も年末年始が休だからか、家庭教師から課題がそれなりに出された。だから、それぞれがその課題を消費するためにここ数日は部屋にこもっている状態で、顔を合わすとしたら書斎で課題をしていた兄弟だけだった。屋敷の侍従なども、屋敷内の模様替えや、インテリア家具などの断捨離作業に追われていたらしく、慌ただしく動き回っていたのも記憶に新しい。
やっと落ち着いた今年の最終日、天の日の52日は家族そろって若干疲れた雰囲気を出しながらも、久しぶりに全員で会えたことを喜び合いながら温かい食事をとった。年末の最終日は、どこのお店も閉まっていて休みの人も多いが、貴族社会では休みなど存在することはなく、屋敷の使用人や街に停留している騎士団などは今日も業務をしているところもある。ただ、年末はいくつかの組に分けてそれぞれ数日休みを取っているらしく、我が家の公爵家もいつもより静かになっていた。
「ほんっと、人使いが荒いよね。僕はそこまで苦じゃないけど、もうちょっと休みをくれたっていいのにさ。明日からまた任務あるとか、オーバーワーク過ぎでしょ。ディオ兄もそう思わない?」
「何で俺に話を振るんだ。お前の仕事も、やっていることも俺は基本的に触らないからな!」
「え~、冷たいなぁ…それでも僕のお兄様なの?」
「血縁的には、兄だな。」
「まあ確かに血縁的にも事実上、僕はディオ兄の弟だけどさ、あまりにも反応が冷たいんじゃない?」
どうやらルスの所属している組織は今、繁忙期らしく依頼が絶えないことを兄のディオに嘆いているが、裏社会と関わりたくないディオは凄く嫌そうな顔をしている。
「…そういえば、ゼクスはどうした?」
そう言いながらディオはきょろきょろと辺りを見回す。
「ゼクスなら今日朝まで一緒にいたよ。ひっさしぶりに魔物狩りに行ってきてさっきさばいたからそれの一部持ってどっか行っちゃったよ。」
「…生肉を食べさせているのは良いとして、魔物の肉を食べさせているのか?」
「ゼクスは雑食なんだよ、基本的に何でも食べるよ。」
「そうか、フルーツもたべるのか?」
「どうだろ、あげたことないな。」
どうやら話は飼っているゼクスの話になったらしく、会話がどんどん進んでいくのをセレナはお茶を飲みながら、静かに眺めていた。やはり、ディオは動物全般好きらしい。最近、屋敷の近くに巣を作って住んでいるりすに食べ物を与えている姿が目撃されている。
実はここにいるのは、今話している二人だけではなく、兄弟全員が囲むようにソファに座りながらお茶をしているところだった。お父様とお母様はここのところ休日という休日がなかったので、軽く運動をしてから寝室に寝に行ったからここにはいない。
ディオとルスはセレナの右斜め向かい側に座っており、左向かい側にはイルとノース、左にジュリ、ルスの対面にベリー、という風な並びで座って各々好きなことをしていた。ジュリは休み明けに提出する課題を黙々と進めており、ベリーは静かにお茶を飲みながら呆れた顔をして、反対側に座って喋っているルス達を見ている。双子は課題の分からないところをたまにベリーに教えてもらいながら残りの課題をやっているようだ。
セレナはどうしているか、というと、ルス達の会話に耳を傾けながら高等部の教科書を読んでいた。時折、ジュリに課題で分からないところを聞かれたら答えている。ここの二人だけは教える側と教わる側が逆になっているのだが、ここにいる者は誰もそのことについて突っ込んだりはしなかった。なぜなら、ヴァルキトア公爵家の兄弟全員、セレナが一番いろんなことを知っていることが共通認識になっているからだ。
「そういえば、セレナ。来年はあれがあるね。」
「そうですね。私もとうとう4歳ですか、感慨深いですね。」
「度々思うけど、お前らまだ年が一桁なこと忘れてないか?しかも、何であれで伝わるんだよ…本当に、セレナのルス語解読能力高いよな。」
「まあ、セレナだからね。僕のことを一番分かってくれるんだよ!もちろん、自分自身よりね!」
「それはそれでどうなんだ…自分のことぐらい自分で理解しておけ。」
「考えておくね!」
「いや、そこは今すぐ実行しろよ。」
なんて、どうでも良い会話がのんびりと続けられていく。ジュリが学園に行く前は、よく6人集まってそれぞれ好きなことをしていたが、ジュリが学園に行ってからは限られた休みの日にしかこういった家族団欒ができなかったので、何だかんだ言いながら兄弟全員大切にしているのであった。
外では寒い風がひゅっと吹いて窓ガラスをたまに揺らしているが、もうそろそろ春が来るのか、庭先ではそこら中に春の花がつぼみを付けていた。
もうすぐ、春がやってくる。その日は一歩一歩と少しずつ歩みを進めているのであった。
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