猫族に転生した私は氷姫に甘くとかされる

でずな

にゃんにゃぁ〜ん



 私には別の世界で人間として生きていたという記憶がある。仕事で疲れて、トラックに引かれそうになったところまで覚えている。

 まぁ、前世のことなんて今はどうでもいい。今は人間ではなく、猫族。猫って言ったら、いつもだらけて可愛い逆三角形の鼻があるあの猫。目を覚ました時、水溜りに映る私の白い猫耳を見たときはビックリして飛び上がってしまったものだ。


 そんな私はある日突然、村が戦争に巻き込まれてしまった。お母さんやお父さんはおろか、村にいた同族は全員死んでしまった。なんとか隠れて難を逃れた私は、行く宛もなく村から出た。


 猫族は人間から嫌われている。もしバレたときには、私が私ではいられなくなってしまう。なので身を隠しながら歩いて、歩き続けて…………力尽きた。


 そして今。知らない場所にいる。さっきまで寝ていたところは人間の貴族が使うような、豪華なベット。

 でっかい家具だったり、本当にここは貴族の部屋みたい。


「窓にゃ」


 棒のような足を無理やり動かして外を覗く。


「にゃ〜……」


 人間を上から見下ろしてる。

 いろんな家があるからここは高台? なんかすごく高い場所だってわかる。


 もしかして私って助けられたんじゃなくて、監禁されてるんじゃ……。

 

「それはよくないにゃ! にゃご」


 い、いきなり動こうとしたから転んじゃった。


「あら。3日間寝ていたというのに、随分元気なのね」


「誰にゃ!!」


 部屋の出入り口の扉の前に知らない女が立ってる。


 腕を組んで見下されてるこの構図……なんか嫌。

 

「私はアミア。貴方のことを助けてあげた恩人よ? そんな敵意むき出しの目で見るんじゃなくて、まずはお礼をするべきじゃないかしら」


「ア、ミア。その名前聞いたことがあるにゃ。王族で、男のことをゴミ同然に扱い、人間の中で一番気高いと言われている……氷の姫、アミア!」


「そんな風に呼ばれることもあるわ」


「ふふふ。怪我をしているのなら隠せると思ったのなら、大間違いにゃ! 私のことを舐めると足元すくわれるにゃよ」


「なんで名乗っただけなのにそんなこと言われないといけないのかしら……」


 この女は噂によると、人のことを人と思ってないやばい女。ここは上手く言い回して、早くこんなところから逃げないと……。


 何事もなかったかのように立ち上がり、何かあってもいいように戦闘状態になる。


「あれ? 私何かしたかしら」


「何かするのはこれからにゃ!!」


「?」


 すっとぼけた顔……。これはもう私に恩人とか嘘をついて、監禁しようとしているに決まってる。


「にゃふふ。そんな顔をしたって無断にゃぁ!!」


「だから本当に何なのよ!!」


 無防備な氷姫に向かって渾身の猫パンチを繰り出した!


 状況を理解せず、バカなことはするべきじゃない。


「ほらッ! ほらッ! 自分が命を助けてくれた恩人に非道なことをしたって自覚はあるの!?」

 

「にゃう!? ある。あるからもう尻尾にぎにぎするのやめてほしいにゃ!! 痛いにゃ……」


「私に向かって攻撃……いや、あれは攻撃だなんて言うのか曖昧だけども、王族に攻撃すると本当は死罪なのよ。反省しなさい」


「ご、ご、ご、ごめんなさいにゃ。だから、殺さないでほしいにゃ……」


 ぺったこんになった耳をコリコリされながら、肉球をぷにぷにされながらも私は精一杯、何度も何度も謝った。


「謝って済むわけないでしょうが」


「じゃ、じゃあどうすれば許されるのにゃ?」


「そうね……。私のところでメイドをしてくれるのなら許してあげるわ。もちろん労働なのだから給料も出させてもらうわよ」


 氷姫のところでメイド……。

 怖いけどこんなの選択の余地はない!


「許してもらえるのならなんだってやるにゃ!」


 私にはメイドなんて向いてなかった。

 窓をふこうとしたらガラスが割れ、床を掃除していたらバケツをひっくり返す。はっきり言おう。私は周りの同じメイドから呆れられるほどの、ぽんこつメイドだったのだ。


 挫けそうになったけど、これもすべて死罪を許してもらえるためと、心に言い聞かせて頑張ってきた。まぁ、給料がかなり高いというのも少しは心の支えにはなっていたかもしれない。


 アミアと喋ったり、お風呂を壊したりと今日もメイドとしての一日が終わった。月光が差し込む深夜。

 私は毛づくろいをしながら○○○を待っていた。


「あら。待たせたかしら? 寝ていてもよかったのに」


 部屋の中に入ってきたのは、太ももや二の腕が透けるほど薄いパジャマ姿のアミア。


「全然待ってないにゃ。それより早く早く」


「はいはい」


 アミアは隣り座って、無言で膝を擦ってきた。

 これはいいっていう合図。


「にゃ〜ふ」


 柔らかい太ももにぽふっと顔からダイブした。

 頭を太ももにして横になる。 


「ゴロゴロ……」


 こうしていると、自然と喉から音が出てくる。

 音を聞いたアミアはすかさず私の頭を優しく撫でて、もう片方の手で1番気持ちいい喉のところを撫でてきた。


 こんな、気持ちいいと顔とろけちゃう……。


 その後も文字通り体中色んなところを撫でられ、アミアは満足した顔で部屋を出ていった。 


「にゃっほぉ〜」


 やっぱりアミアの手付きは最高だった。

 ここに、メイドとして雇われる前はアミアはヤバい人だと思ってた。けど、今はその真逆に思える。

 私はアミアのお陰で、新しい居場所を手に入れた。


 メイドとしてそのお礼を返すのはまだまだ先になると思うけど、いずれ、必ず、命を救ってくれた恩を超えるものを返したいと強く思いながら今日も瞼を閉じた。

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猫族に転生した私は氷姫に甘くとかされる でずな @Dezuna

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