伝えたい

私は響きを見て今すぐにでも駆け寄りた

かった。

でも何を話していいかも分からずスルー

してきた。


そんなある日、園芸係の仕事で学校の庭園に行った。

誰もいないこの空間が私にとっての

秘密基地だ。

私はコスモスの花畑に行くと人影が

あった。

私は恐る恐る近づくと響がいた。

響も振り返り私を見ていた。

しばらく沈黙が続いた。

でもここで変わらなければ意味が無い。

またいついなくなるかも分からない響に

伝えなきゃいけない。

私は響に近付いて言った。


「ありがとう」


私の言葉に響は戸惑った顔をした。

なんでお礼を言ったかなんて決まってる。


「あのさあの時なんですぐに謝るんだって

言ってくれた時私の中で何か変わったの」

「変わったって?」


響はまだ不思議そうな顔をしている。


「それは響が考えて!」


私は言いたいことを言えてスッキリして

くるりと背を向けた。

その時響は私の腕を掴んで言った。


「聞かないの?」

「何を?」


私は響が何を言っているのか分から

なかった。


「ピアノのこと」

「あ〜そのことか....

別に言いたくなかったら言わないで

いいよ」


私は今思っていることをそのまま口に

した。

響は少し俯いてから顔を上げて私の目を

まっすぐ見た。


「今だから伝えたい」


その言葉は私に今まで向けてきた言葉の

感情とは全く別物だった。

それから響は話始めた。


俺 小柳響 は病室のいた。

俺の目の前には意識が戻らない父親の姿があった。

なんで意識が戻らないなんて本当は

知ってる。

でも認めたくなくて俺は知らないフリを

した。

俺は毎日この部屋に入り今日あったことを話していた。

一方的に....


両親ともに入院しているので俺は病院に

住んでいた。

でも暇で仕方なくいつも病院内を見学していた。

病院には色んな人がいる。

一応元気な人,もう今にも死にそうな人。

そんな人たちを毎日見ていた。

歩きていると見たこともない階段が

あった。

俺はその階段にひかれるように上に

上がっていた。

その階段の先にはひとつの扉があった。

俺はその扉を開けて部屋に入った。

その前にはひとつの大きなピアノが

置かれていた。

でもピアノなんか弾けやしない。

俺はその周りをウロウロしていた。

その時部屋の扉が開いた。

扉の前には1人の少女がいた。

その少女は俺に近付いて少女が持っていたノートに『教えてあげる』と書いた。


「ピアノを?」


俺の質問にこくりと頷き少女は1度も言葉を発しないままピアノを1から全て教えて

くれた。

夕暮れが近づいた時少女はピアノから離れて俺に手を振って出ていった。

その日からその少女とは頻繁に

あっていた。

時には俺は歌って少女はピアノを弾いて

楽しんだ。

でもそれから何日かたった時から少女はこの部屋に来ることはなかった。

病院内を探したりもしたが会うことは

なかった。

俺は寂しさを紛らわすために夜中はずっとピアノを弾いていた。

そんなある日、ピアノを弾いていると扉が開いた。

あの少女かと思ったがまた別人の少女だった。

でも一目見ただけで歌だと分かった。

父さんを病院送りにした少女。

でも何故か不思議と怒りは湧いてこ

なかった。

少しあの少女と似ているからだろうか。

あの少女は俺にとっての音楽の姫だった

からだ。

ある日父さんが目を覚ました。

嬉しかった。

俺の大好きな人だったから。

父さんは俺と病院内を見学したりして暇を潰した。

俺にとっては幸運な時間。

俺は病室に戻る前にあのピアノの部屋に

案内した。

父さんはこの部屋の存在に驚いていた。

俺は「見てて」と言ってピアノの椅子に

座って昔父さんが大好きな曲を弾いて熱唱した。

俺は父さんに褒めてもらうために

毎日練習していた。

曲を弾き終わったあと笑顔でお父さんを

見ると父さんが倒れていた。


「パパ!」


俺は父さんを抱き上げて涙を浮かべて

いた。

どうして....!元気になったと思ったのに....

すると父さんは俺の手を握って言った。


「ごめんな....

俺は溺れて意識を失ったわけじゃ

ないんだ」

「どういうこと?」

「もともと病気だったんだ

でもみんなに心配させたくなくて黙って

いたんだ」

「そんな....」

「だからなあの時歌ちゃんが溺れた時どうせ

死ぬなら人を助けて溺れて死んだと

思わせようとしたんだ

だけどこの行為をしたら歌ちゃんのせいで

俺が死んだことになってしまう 」

「....」

「俺は最低な人間だよ

どうか歌ちゃんをせめないで

そして俺みたいな最低な人間に響の

キレイな歌声とピアノを聞かせないで

くれ....ごめんな」


そして父さんは亡くなった。


その後看護師数人が俺らを発見して母さんにもこのことが伝えられた。

母さんはと父さんの病気のことを知っていたらしいが黙っていたらしい。


俺は寂しさを忘れようとしてあの部屋に

行きピアノを弾こうとした。

でも父さんの言葉を思い出してピアノの頭に入っていた楽譜が全て消えてしまった。

歌声を出そうとしても声が出なかった。

俺は父さんがなんの病気だったのか知り

たくて看護師に尋ねたけど川で溺れたとしか言ってくれなかった。

父さんが看護師たちにそう伝えるように

言ったからであろう。


その日歌が倒れたと聞いて倒れた場所からして俺の話を聞いていたんだと分かった。

俺は伝えたいことがあった今まで勘違いしてたとでも歌が ごめんなさい と言った時心がはち切れそうだった。

父さんの最後の言葉もごめん。

もうこの先会わないかもしれない歌にも

ごめんと言われてなんで人はすぐ謝るのかと怒りが込み上げてきた。


その日から俺はピアノも歌も出来なく

なった。

父さんの言葉が呪いのように俺にまとわりついていたからだ。


小学校で歌と再会した時も歌は俺から

話してもらおうとしてた。

俺だって歌から話してもらいたかった。


だから今伝えたい。

ごめんって言わないで。



響の言葉は理解出来たようなできないような言葉だった。

でもお互いすれ違っていた心を重ねることができたんじゃないかと。








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