私の王子様

歌は自転車を停めた後、俺の隣に座った。


「なんかあったの?」


と歌は聞いてきたけど俺はそっぽ向いて

無視した。

向いた先には下校中のクラスの奴ら。

俺は影が薄いから誰も気付かない。

靴は下駄箱にあるから今は上履き。

だから今は帰れない。


「ちょっと無視しないでよ‼️」


慌てて振りかれるとふてくされた顔をした

歌が俺を見ていた。

歌は昔から顔が変わってないな。

そう思いながらちょっと笑った。

なによ と不満げな顔をしてたがスルー

しといた。


「で?何があったのよ」


また歌がしつこく聞いていたからこの

校舎裏にいる理由を話した。


「ふ〜んつまり彼女と喧嘩したってこと?」


俺は 彼女 という言葉に驚いて

「ちげーよ」と反論した。

俺は花風のことを話しているうちに

あることを思い出した。


「歌って『ドレミ』にいるよな?」


俺は思い出した言葉をそのまま口にした。


「え?あっうん」


歌は急に言われたことに戸惑いつつも

答えた。


「有井菜々子に合わせてほしい」


俺は歌にお願いした。


「どうして?」

「いや....それは....」


歌に有井菜々子から連絡があったなんて

言えるわけがない。


「言えないなら合わせない」


ふんっ と言って歌は立ち去ろうとした。

俺はここで逃げられてはまずいと思って歌の腕を掴んで今までの事情を全て話して

しまった。

歌は俺の話を聞いた後、しばらく黙って

いた後


「つまり唄ちゃんを守りたいのね」

「いやっそれは....」


否定したいが否定できない。

ぶっちゃけその通りだ。

歌の方を見ると少し不満げな顔をしてた。

でもそれは一瞬。

歌は真面目な顔をして言った。


「それは無理よ」


その言葉を理解するのに2秒ほどかかった。

歌の言葉はいつにも増して冷静だった。

歌の顔は無表情なのに威圧感があるボスのような顔だった。


「なんでだ」


俺も冷静に尋ねた。


「響知らないのね

まぁ知らないのも当然か

今日校舎入っていないもんね

でも学校中に知れ渡っているよ

唄ちゃん音楽祭の当日にNYに

引っ越すってね」


淡々と述べられた言葉には真実という言葉しかのっていなかった。

俺は怒りよりも冷静さが込み上げて歌に

言った。


「なんで『ドレミ』に入ったんだ?」


歌は思わぬ言葉に数十秒黙っていた。



私 花札歌 は思いがけない質問に

戸惑っていた。

入った理由なんて言えないよ....

でもこれだけは言えるんじゃないかな。

響のことが好きだから。

あの日からずっと



3歳の時思わぬ事故にあい1ヶ月ほど意識が戻らなかった。

親たちは仕事が忙しく入院中もずっとは

病室にいなかった。

たまたま親たちが仕事にでていた夜中私は目を覚ました。

病室には誰もいなくて事故の時にぶつけた頭がズキズキした。

私にとっては初めての場所で恐怖が募り

酸素マスクや点滴を全部外してしまった。

その日の夜は夜勤の看護師が少なく私の

入院していた階には誰もいなかった。

私は廊下を走っていった。

下の階はもっと暗くて少し明るい上の階を目指して走った。

1番上の階まで上るとどこからともなく

ピアノの音色が聴こえる。

まるで死神の笛で誰かを呼び寄せているような美しすぎる音色だった。

私は魔法がかかったように音が聴こえる

部屋に向かっていった。

その部屋にたどり着くとドアが風で勝手に開いた。

その部屋にいたのは私と同い年くらいの

少年だった。

少年は私に気付くと手を止め私の方に

駆け寄ってきた。


「目覚めたんだね」


嬉しそうな顔で私の手を握った。

私はこの少年が誰なのか分からず困った顔をしているとパッと手を離して言った。


「歌ちゃんは川に溺れたんだよ」

「そうなの?」

「うん 歌ちゃん1ヶ月も眠ってたんだから」


そこで私は思い出した。

あの日両親と仲が良い家族とキャンプを

する予定だったんだ。

生まれた病院と誕生日が一緒という少年と名前も聞かずに遊んでいた。

でも川に入った時たまたま深いところに

ついて溺れたのだ。

その遊んでいた少年がこの子なのか。

私はそう思って少年に笑いかけた。

そういえば川に溺れた時少年は

寝てたっけ。

でも冷静に考えるとこんな時間にこの少年いるのおかしい気がする。

親とかがいるはずじゃ。

私は少年に尋ねた。


「ねぇ 君のお父さんとお母さんは?」

「....」


少年は少し俯いた。


「ママはお腹の中に赤ちゃんがいてこの病院

に入院中

パパはなんか分かんないけど入院してる」


そうなんだ....

私は少し悲しくなって思った。


「ねぇねぇもっかいピアノ弾いてよ」


私はこの空気を返させようと言った。

少年は「いいよ」と言ってピアノを弾き

始めた。

少年のはもはや子供の手の動きでは

なかった。


弾き終わったあそういえば名前聞き

忘れてたと思って聞こうとした時バタバタ

と廊下から聞こえてきて看護師が数人私たちがいる部屋に入ってきた。


「ここにいたんですね歌お嬢様」


そう言って看護師たちは私をおぶってこの部屋を出た。

後ろを向くと少年は手を降っていた。

でもどうして私がお嬢様なのだろう。

父は社長でもなんでもないし母もそうだ。

でも質問できる感じではないし黙って

いた。


数日安静にしたら普通に出歩けるように

なった。

でも親たちを見ることは1度もなかった。

私はあれから夜中に少年のピアノを聴きに行くのが習慣になっていた。

あの少年の名前はいまだに分からない。

だって教えてくれないんだもん。


ある日の朝たまたま病院で少年を見つけた。

嬉しくて駆け寄ろうとした時看護師たちと

あの少年の声が聞こえてきた。


「どうして!どうして!」

「響くん....」

「お父様はある人を助けて亡くなったのよ」


その時私は3歳ながらに理解した。

あの川に溺れた日、溺れた時誰かが助けに来てくれたのを覚えてる。

きっとあの時助けてくれたのは響くんの

お父さんだと。


「でも....パパは戻ってこないんだよ」


響くんの言葉に胸が痛んだ。


「あのね....響くん歌お嬢様のお父様と

お母様はあの日お亡くなりになったの」


え....私は予想もしてない衝撃な言葉に

身動きがとれなかった。

本当は飛び出して理由を聞きたい。

でも私はショックで途中で意識を失った。

倒れて意識があやふやになりながらも

響くんと看護師たちが何かを話しているのが分かった。


気がつくと病室のベッドにいた。

隣には俯いたまま座っている響くんの姿と看護師数名がいた。


「聞いてたんだね」


響くんは俯いたまま今までとは別人のようなテンションで聞いてきた。

私はこくりと頷き言った。


「ごめんなさい」


悲しくて涙がこぼれ落ちてくる。

そんな私を響くんは黙って見ていた。


あの日から響くんはピアノを弾かなくなった。

私は知り合いの大企業の社長の養子になることを伝えられた。

その時私がお嬢様と呼びれていた意味を

知った。

お父さんとお母さんは病室に来てくれ

なかったんじゃなくて行けなかったんだ。

私が退院する時に小耳にはさんだが響くんのお母さんは無事出産をし響くんと病院を

あとにしたそうだ。

両親たちも私を助けに行って亡くなった

らしい。

両親と響くんのお父さんは私が殺したようなもんだ。

そんなネガティブな私を知人夫婦は暖かく

迎え入れてくれた。


私はあの王子とは2度と会わないと思っていた。


私の要望で小学校は市立に行かせて

もらった。

あの2人は私立に行かせたがっていたのだがなんだか申し訳ないように思ったからだ。


入学式の後にクラスが発表された。

自分の名前を探していると私は息を

飲んだ。

私の名前が書かれているクラスに響という名前の子がいたからだ。

でも苗字は聞いたことがないからあの人かは分からない。

私は教室に入って響という子を見た。

私は見た瞬間に涙が出そうになった。

私の王子様だった。

私の大好きな人だった。

顔もあまり変わっていなくてすぐに

分かった。

でも話かけられなかった。

拒絶されたらどうしようと。

その日からどうにか話しかけようとたまに近寄って手を握ってみたり熱い視線で響を

見た。


そういうところが嫌われたのかな。


何故かクラスも4年生まで響と同じだった。

でも話しかけられなかった。


ある日私の(新しい)お母さんが言った。


「ねぇ歌ちゃん

とても伝えにくいんだけどね

仕事で転勤することになったの」


転勤って引っ越すってことなんだ。


「どっどこに?」

「大阪よ」


大阪って....ここ東京だから簡単にはクラスの人たちと会えなくなる。

もちろん響とも....


そんなことを考えているうちに引越しの

前日になってしまった。

結局ピアノもあの日から響は弾いてない。

私はみんなに見送られながら教室を出た。

昇降口を出たところだった。

私の前に人影が現れた。

響だった。


「なぁお前あの時の病院にいた歌だよな」

「う....うん」


突然の言葉に言葉が詰まった。

それにあの日以来初めて話した。


「あのさ歌....俺にアプローチしすぎだよ」


ハハっと少し笑ったあと俯いた。


「ごっごめんなさい

どうしても話したくて」


響は数秒黙ったままだった。


「歌のそういうところが嫌いだ」

「え?」


突然の言葉に息が止まった。


「なんで 何でもかんでも謝るんだ?」

「そっそれは....」

「あの時だってなんで謝ったんだよ

別に俺あの時怒ってないから」


そう言って響は走り去ってしまった。

結局何も言えないまま。


転校した日から響とは会っていなかった。

もう一生会えないんだと覚悟もしていた。

でも中1の秋、転校生を見た時は奇跡が

起こったのだと思った。

だって転校生は小柳響だったから。



















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