いつか話すね

花風はピアノから手を離すとメモ帳を取り出して何かを書いて俺に渡したあと音楽室をあとにした。

メモ帳を見るとこう書いてあった。


演奏最後まで聴いてくれてありがとう。


「別に最後まで聴きたくて聴いたわけじゃな

いけど」


と素直じゃない返事を独り言のように誰もいない場所に向かって言った後、楽器を取り出して気が済むまでフルートを吹いた。



気が付くと空は絵に描いたような綺麗な 赤色に染まっていた。


「帰るか」


と呟き、楽器をしまった。


音楽室を後にし、昇降口を出ると また見た事のある後ろ姿がベンチに腰を下ろしていた。


「まだ帰ってなかったのか」

うん

「早く帰れよ この時期はいつ暗くなるかわ

からねーからな」

ご心配ありがとう でも大丈夫

お迎えが来るから

「あそっ」


心配が無用だったと思い帰ろうとした時、

足音が聞こえてきた。


「ごめーん バイトが長引いちゃった」

大丈夫


ポニーテールの高校生くらいの女子が言った言葉を花風は短い言葉で返した。


「あら あなたは唄の.....」

「クラスメイトです」


何か冷たい目でこちらを見てきた高校生 くらいの女子が問いかけにクラスメイトと返した。


「そう」


と何故か高校生くらいの女子は安心したように言った。


「あなた名前は?」

「小柳響です」

「私は唄の姉の花風奏よ」


へー 花風に姉がいたなんて知らなかった。

てか花風 この前兄弟はいないって言ってなかったか?


そう思って言おうといたが花風は俺の考えていることを感じ取ったのか目で何かを訴えて首を振った。

俺は今にも出てしまいそうだった言葉を飲み込んだ。


花風の姉は花風の手をしっかり握ってから俺に頭を下げたあと学校をあとにした。

俺は2人の背中を見送ったあと、2人とは

反対方向の道へと進んだ。



次の日の朝

外ではザアザアと大きな音をたてながら雨が降っていた。

花風はいつもより遅い時間に学校に来て

ホームルームが始まる1分前に席に着いた。

いつもホームルームの始まる10分前には席に座っている花風にとっては珍しかった。


その日は誰とも喋らず、ずっと音楽を聴いていた。


「ねえ 小柳くん」


突然 俺の席の前にいつのまにかできていた唄ファンクラブ 通称ドレミのメンバーの1人の宮野詩希がいた。


「なんだよ」


俺は無愛想に言った。


「花風さんの元気がないんだけど」

「だからなんだよ」

「小柳くん花風さんのこといじめてるんじゃ

ない?」

「は?なんでだよ」


訳の分からんことを言われて俺は少し イラついた。


「昨日花風さんといたところ見ていた

メンバーがいたんだから」

「俺以外にも1人高校生くらいの女子がいた

だろ」

「メンバーの話じゃ花風さんをいじめていた

所をそのJKは助けたっていう話よ」

「俺たちの話聞いたわけじゃないだろ」

「そうだけどメンバーの話じゃ花風さんは

少し暗い顔していてそのJKは少し冷たい

表情 していてあなたはいつもあまり見ない

表情をしてたって聞いたわ」


そのメンバーよく見てやがる。


「確かに花風は少し暗い顔してたかもしれな

いけど....」

「ほらご覧なさい」

「でも俺は理不尽じゃね?」

「何がよ」

「いつもあまり見ない顔ってなんなんだよ」

「少し表情がいつもより柔らかかったって言

ってたわ」

「なんで表情が柔らかかっただけでいじめて

るってことになったんだよ」

「はぁ?知らないわよ」

「いや こっちがはぁ?なんだが」

「どうせいじめてて笑ってたんじゃない

の?」

「いじめてんのに楽しんでつがいたらヤバい

やつだろ」

「あなたはヤバいやつよ」

「は?」

「それとその高校生は花風の.....」


姉と言いかけたところで言葉が詰まった。

姉と言えば誤解はだいたい取れるのだが、花風の姉と言えば今まで花風は姉妹がいた事を隠していたことになる。

そうなるといろいろややこしくなる。


「で?そのJKは花風さんのなんなのよ?」

「そっそれは.....」


なんて言えばいいか分からなくなり黙っているとある少女が俺の前に現れた。


花風だ。


彼女は俺をかばうように前に立ち両手を広げた。


「花風さん?」


宮野は驚いて石のように固まった。


行こう


と口パクで彼女は俺に言ったあと俺の手を 引っ張て教室から飛び出した。


5時間目のチャイムがなった。


その日、真面目な花風とよく授業をサボる俺が一緒に授業をサボった。


走って着いた先はもう使われていない 旧校舎の音楽室だった。

雨が降っているせいか教室はジメジメとしていた。


「なんで俺をかばったんだよ」


彼女は黒板に唯一あった青いチョークで

ごめん と書いた。


「ごめんじゃなくて....聞いているのは

理由....で」


俺は言おうとした言葉を飲み込んで彼女の顔を見た。

彼女は大人しい性格だ。

人の前にたって人をかばったことなんてなかったのだろう。


だから怖かったから今彼女は泣いているの だろう....


彼女は突然俺の制服からスマホを取り出し俺と彼女の連絡先を交換した。


そして俺にメッセージを送ってきた。


いつかいつか全部話すからそれまで待っててほしい

「うん 待ってる」


俺は自分でもびっくりするような優しい 表情で彼女に言った。


俺たちはしばらく横に並んで座っていた。


5時間目の終了チャイムがなった。


彼女は寝そうになっていた俺の袖を掴んで窓の方を指さした。

俺は窓を見ると目が覚めるような眩しい光と綺麗な青空が広がっていた。



俺たちは放課後もここに残っていた。

古びたピアノを調律していたからだ。


ここでいつでもピアノを弾けるように..








教室では放課後の歌声練習をしていた。

私 宮野詩希は歌声リーダー

音楽祭ではもちろん1位を狙っている。


教室では花風さんと小柳くんがいなくなったことがちょっとした騒ぎになっていた。


私のせいではないと自分に言い聞かせ ながら練習していた。

でも噂が広まるのは早い。

いつのまにか私のせいになっていた。

先生は2人を探しに行っていていない。

今日はみんな2人のことで練習に集中してない。


私はため息混じりに練習をいつもより5分 早く終わらせた。



生徒がだいたい帰った後、私はドレミの 活動室に呼ばれていたので活動室に向かった。


「なんでここに呼ばれたか分かってるわ

よね?」

「はい」


きっと今日の事件で呼び出されたのだろう。


「ねぇ 花風さんに嫌がらせしたの?」

「ごっ誤解です。ただ私は花風さんをいじめ

ていたと思われる小柳くんに事情を

聞こうと..」

「ふふっ あなたこそ誤解してるわ」

「えっ?」

「昨日小柳さんと花風さんが一緒に話してい

たのを私が見たの」

「はっはあ」

「それでこれから先ちょっと彼が邪魔になる

と思ってこの噂を広めただけよ」

「えっ?」

「ねぇこの活動クラブのルール覚えているわ

よね?」

「....はい」

「第1条 花風さんに嫌な思いをさせない」

「嫌なことって....」

「花風さんはあなたに今回の件で嫌な思いを

させた よってあなたをこの活動クラブから強制退会させるわ」




私は落ち込みながら廊下を歩いた。

廊下はさっきまで雨が降っていたからか どよんとしている。





私 有井菜々子は旧校舎にいた。

さっき活動クラブの部員だった1人を 強制退会させたところだ。


私はドレミの会長だ。


歩いていると音楽室にたどり着いた。


私は旧校舎にあったピアノを調律してこいという命令を合唱部の部長から言われた。


合唱部の唯一ピアノ伴奏者である私がこれから合唱部の練習でたまに使えるように調律しに行く。


まずまず1つしかない音楽室を合唱部は使ってはいけないというルール決めた吹奏楽部が嫌いだ。

まぁ吹奏楽部と活動日が同じだからしょうがないかもしれないけど

私たちはそのせいで多目的室を使っている。


私は音楽室のドアを開けピアノに近付いて調律しようとすると驚いた。

ピアノがもう調律してあったのだ。


私はなんで? と思いながら黒板を見ると

青い字で ごめん と書かれていた。

この字は花風さんの字....

私はふとあることを思いつきスマホでその画像を撮り、私は少しニヤついて音楽室から出た。





































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