第13話

そうだ。花火の途中に僕は攫われたんだ。

きっと彩沙さんは混乱してるに違いない。

早く彼女の所へ行かないと。

病院へ行くと、彼女は眠っていた。

看護師さんに聞くと、昨日の夜、見回りに来た看護師さんが気絶している彼女を見つけたらしい。体から水分の影が出てきて危険だったらしい。

本当に、申し訳ないことをしたな。



(あれ…私、気絶してた?)

記憶が無い…体も重い。喉が、カラカラだ。

横を見ると、彼がいた。

「!?びっっくりしたぁ…。」

「あ、起きたか。ごめんな。昨日ひとりにして。」

「あぁ、うん…。聞いていい?」

「ん?」

「何があったの?」

「あぁ、話すとめっちゃ長くなるけど…」

「いいよ、話して。」



「…てことがあったんだよ。」

「そっか。大変だったんだね。」

嫌われたわけじゃないことに少し安堵してしまった。

「でさ、彩沙さんに言いたい事があるんだ。」

「なに?」

「僕の本当の名前。」

「…うん、聞かせて。」

「僕の本当の名前は″夕大″って言うんだ。」

「そうなの…。いい名前じゃん。」

「ありがと。彩沙さんに一番に言いたかった。」

昨日までの寂しさとわだかまりが一瞬で消えた。今、人生で一番この時が幸せだ。

その時、突然ガラッと扉が空いた。

吃驚したのも束の間、首を固定され、麻酔薬を首に打ち込まれてしまった。

対抗も虚しく、間もなく薬が回ってきた。

「君は…こいつの友人かい?」

「え…」

「ならすまないな。もう二度と会うことは無いだろう。」

そう言い捨て、颯爽と消えていった。


どういうこと。


あいつが、夕大の言ってた施設の人?


もう二度と会えないの?


もう、あんなに楽しかった日は送れないの?


嫌だ、もっと一緒にいたい。


まだ好きだと言えてない。


私の初恋の人なのに。


嫌だ。


許さない。


私からあの日常を奪う奴は許さない。


絶対に許さない!!!


突如、病院の最上階から人型の水の化け物が出現した。

大きさは病院の2倍程で、その姿は

まるで

でかい大人が

子供を虐待するかのような

おぞましい表情をしていた。


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