第12話

どれくらい走っただろう。森からはまだ抜けられない。

息切れが酷い。少し休まなくちゃ。

地べたに座り込んで息を整えようとするが、まだ落ちた時の傷みが続いて整いにくい。


ざっ…ざっ…ざっ…

誰かが歩いてくる。追ってか?いや、でも反対方向だ。

誰だ。

「…はぁっ…はぁっ…待ってろ、シロ。」

この声、もしかして先生?

「っ先生っ!!」

見開いた目でこちらを見る。よかった先生だ。

「先生っ!僕なんか意味わかんない奴らに…」

先生が勢いよく抱きしめた。

「すまなかった…俺のつめが甘いせいで。

お前には、全て話さなきゃな…。」

「どういう…」

「とりあえず、ここを離れよう。」

手を引かれ、だいぶ走った。

なんとか研究室へ戻ってこれた。

「危なかったな。とりあえずその傷を消毒しよう。こっちに…」

「ねぇ。」

「………そうだな、少し話そうか。」

「うん。」

「お前は、研究施設で生まれたんだ。研究施設で捕らえられた母親から生まれたんだ。」

「僕は…研究施設で、生まれたんだ。」

「あぁ。そして、お前の父親は俺だ。」

「ぇ」

「元々、俺と彼女は恋人だった。研究施設に捕らえられてから、俺は施設に潜り込んだ。いつか、機会を伺って脱出しようとした。

だか、彼女の妊娠が発覚した。研究施設で人為的に妊娠させられたらしい。彼女は、お前を産んでから自殺してしまった。」

「……」

「そして、母親の特性を受け継いで残されたお前が新しい研究対象になった。

俺はお前がこの先彼女と同じ目に遭うのかと思うと不憫で仕方なかった。だから、お前を連れ出して逃げたんだ。だが、急に子持ち、片親で住むといずれバレてしまう。

だから、一度孤児院に預けたんだ。」

「…捨てたんだろ。」

「あぁ、すまなかった。そして、暫くしたらお前を助手として引き取ったんだ。」

「なんで母さんを助けてやれなかったの。なんで守れなかったの。男なら、命に変えても守れよ…っ!」

「…すまなかった。俺の、力不足でしか無かった。」

「母さんも母さんだ。僕を産んだのなら、生きてほしかった。僕のために、生きて欲しかった。

生きて僕に母さんと呼ばせてほしかった。」

「母さんは、母さんと俺は、お前を愛していたよ。お前に、母さんは名前を付けてた。」

「…なんて」

「お前の名前は、″鈴木夕大″。母さんの″夕陽″と、″誠大″から取ったんだ。俺たちは、お前を愛しているという証に。」

「…教えてくれて、ありがとう…。

僕を守ってくれて、ありがとう。

僕の父さんでいてくれて、ありがとう。

母さんを守ろうとしてくれてありがとう。」

泣きながら、初めて父親に、感謝をした。

気が付けば、もう朝を迎えていた。

「ねぇ父さん。僕、まだ父さんって言うのなんか気恥しいから先生って呼んでいい?」

「あぁ。俺も少し照れるからな。」

初めて父と子で会話ができた。

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