第6話

あぁ、またやってしまった。傷つけたい訳じゃないのに。でも無理なんだ。同情されると。

自分が惨めになって、どうしようもなくて。

否定することしか出来なくなる。

面白いし、優しい人だった。…ちょっと、好きだった。

でも嫌われてしまっただろうな。

そんな事を考えて自分の携帯に登録された彼、

″シロ″という文字を眺めていたら、突然連絡がきた。

『目を瞑ってて。』

どういうことなんだろう。

『どうして?』

『いいから。瞑ってて。開けちゃだめだよ。』

…ほんとに、訳が分からない。

訳が分からないまま、私は目を閉じる。

どうしてこんなことをするんだろう?やっぱりこの前のこと怒ってる?でも怒ってたらなんでこんなことを…と延々と考えていたら、やがて

病室の扉が開いた。

得体の知れない恐怖ほど怖いものはない。

ガタガタ、ガサガサ、ゴトッという物音が耳に入る事に私の不安は増していく。

痺れを切らして私は口を開いた。

「ねぇ、ほんとに何を…」

そう言いかけた時、

「見てっ!」

突発的な言動に思わず吃驚して目を見開く。

すると、彼が大きめの傘の骨組みのようなものに魚のオブジェを吊り下げて、ライトアップさせていた。部屋中が綺麗な水色の波の模様で包まれて、深海のようにとても綺麗だった。

「わぁ……。」

あまりに吃驚すると案外言葉が出ないものである。

「彩沙さんのお母さんが、水族館に行ったことないって言ってたから…。」

自分でやったのに少し照れている様子が可笑しくて、愛おしくて。笑みがこぼれた。

「あっはは!」

彼は私の笑った顔を見ると、ホッと安堵したような、嬉しそうな顔をした。

「ありがと。ちょっと、楽になった気がする。」

「くそー、気がするだけかぁ。」

頭をポリポリかきながら少し悔しそうにする。

あぁ、ずっとこのままだったらなぁ。そう考えながら、今日も彼と談笑する。

いつまで、こんな日が続けられるだろう。

神様がいるのなら、どうかこのまま私を幸福で満たしてください。


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