第5話

最初の仕事から3週間目、つまり3回目の仕事の日が来た。だが、今日の仕事は無くなった。

彩沙さんの容態が悪くなったらしい。

面会謝絶で、その次の週も、そのまた次の週も、仕事はキャンセルされた。

さすがに…心配だな。この前のあんなに弾けた可愛い笑顔を見た後だと、余計…。いやまぁ、テロ行為の計画をしなくて良くなって…いいんだけどさ…。心に重しを付けたような暗い気分のまま、6週目の仕事に行った。

今日は、面会謝絶の紙が貼っていない。

軽く震える手を伸ばし、扉を引き、いつもの窓際のベッドへ目をやると、彼女がいた。

しかし、いつものようにこちらを振り向いて笑顔を見せることはなく、窓をじっと見つめたまま、頭髪は、根元が白くなっている。

「…ぁ、あの…。っこんにちはっ…。」

少し体をピクっと反応させるが、こちらへは振り向いてくれない。

「あ…えと、体調は、大丈夫…。」

緊張しすぎて、変な事を聞いてしまった。大丈夫な訳ないのに。僕はいつも言ってから後悔するタイプの人間だ。

「……大丈夫な訳、ないでしょう。」

ピリッとした空気が2人の間に流れているのが分かる。

「見てよ、この頭。ウケるでしょ。毎日しんどい治療と死ぬかもって不安でこんなんになったよ。」

ハハッと渇いた笑い声が静かに響いて、また沈黙が流れた。

「ごめん。辛いよね。」

「何が分かるの?病気、なったことあるの?」

「ないよ。でも、想像すると、辛いことだけは僕でも分かるよ。」

「はっ。なにそれ。要するにまぁ同情だよね。

うわぁ。辛いんだろうなぁ〜可哀想。でしょ。」

「そうだね。ごめん。今のはただの同情だった。でも、何か力になりたいんだよ。依頼主とか、関係なしに。それは本当。」

「…力になりたいって、例えば?」

「僕にできること。話を聞くとか、やりたいことを一緒にやるとか。一緒にいるとか。」

「ふーん。本当に、それで私の力になれるの?」

「なってみせるよ。」

「そう。」

とりあえず、談笑も相談も出来そうになかったので、今日の仕事は一旦切り上げた。

必ず、来週から彼女を笑顔にしてみせよう。

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