第42話 老若仲良く

ファウスの森を進んでいった先に一軒の明かりのついた家が見え、その周りには家庭栽培をしているのか畑が耕されていた。橙色のランプが至るところに置かれ、暗くなりつつある森のなかでは一際その輝きが拡がり、家自体が発光しているようだった。


「着きました。ここからはお一人で大丈夫ですか? 」


さすがに自宅まで入るのは失礼だろうと家の手前で退散しようとしたが老婆がそれを制する。


「腰が痛くて歩けないんだよ。家の中まで送って頂戴」


「え、はぁ……? 分かりました」


簡単に他人を家に入れるのは防犯の観点に置いて危険なのではと思うアスベルだがだからといって下ろすわけにもいかずそのまま畑を通り、玄関先へと向かう。

老婆から鍵を受け取ると扉を開け、綺麗に整えられた廊下を渡る。

お香であろうか甘い香りが辺りには立ち込めていた。柄のある花瓶に生けられた花は瑞々しく、艶があり、どれほど丁寧に世話をしていたかよく分かる。

リビングへとたどり着くと淡い桃色のテーブルクロスがひかれた机の隣に置かれていた椅子を引っ張り出すとそのまま老婆をそこに座らせる。アスベルはそろそろお暇しようとした際に老婆がまたアスベルに頼みごとをする。


「腰の痛みがひかないねぇ。その棚の上にある塗り薬をとってくれんかい? 」


「棚? あそこのですか? 」


老婆が指を指した方向には本や薬品らしき瓶が並べられた棚があり、その上には円柱の容器が置かれていた。これをとったら帰ろうとアスベルはまた了承し、近くにあった脚立を取り出して立てかけると棚の上に置かれていた容器を手にいれた。


「はい、どうぞ」


「悪いねぇ、これが一番効くんだよ。はい、塗っておくれ」


「え!? 」


塗り薬を貰うことなく、老婆は背中側の服を捲った。困惑するアスベルを置いたままアスベル側に背中を向けるものだから断ることもできず、容器の蓋を開けてとりあえず中の淡い緑色のクリームを老婆の背中へと塗る。ある程度塗り終わると塗り薬の蓋を閉め、帰ろうとする。しかしまたもや老婆に止められる。


「外で作業しておったから腹が減ったねぇ。作りおきの料理もないし、困ったねぇ」


「ぇ、料理……!?」


料理など始めれば時間がかかるに決まってる。あまり遅くなるとエルマから大目玉を食らうのだ。


「すいません、僕そろそろ……」


「作ってくれたらその夕飯を食べていって良いと思ったんだがねぇ」


「はい、喜んで!! 」


暴食の魔塵族であるアスベルに食事を断る理由などないのだ。

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