第28話 クレープ食べる機会あんまりない
「それではいってきます!」
早朝の七時。
人通りも少ない中、宿ギルドの前には馬車が停まっていた。
馬の数は三頭。もちろん馬といっても馬の形によく似た魔物であるため、我々が知る馬とは力も大きさも違う。
馬が引く車はかなり大きく小型バスの容量の半分はあるほどだ。
そんな馬車の前でアスベル、ローラン、エルマとギルドマスターのカティスがフィオラを見送っていた。
「いってらっしゃい。気をつけていくんだよ」
「はい! お土産たくさん持って帰りますね」
「うん、楽しみにしてる! 」
「恥ずかしいからそんなこと言わないでくれる? 」
空腹のアスベルに何を言っても無駄なこと。
だがフィオラは嫌な顔一つせず、笑う。
白いリボンが風で揺れた。
ある程度言葉を交わしたあとフィオラは馬車に乗っていった。
運転手がタイミングを見計らったあと、少しずつ馬車を走らせていく。
フィオラはあまり風の抵抗がないときに窓から少し身を乗り上げて四人に向かって手を振った。
もちろん四人もそれに応え、振り替えす。
馬車の姿が遠ざかっていった頃に手を降ろした。
「いっちゃったなぁ」
アスベルはしみじみと馬車の影を目で追っていく。
「今までフィオラにいってらっしゃいって言われてきたばかりだったからこうやって誰かに言うのは初めてだったかも」
「そうだな、今まで俺達は見送られる立場だったからな」
「こういうのは新鮮ね」
と三人でしばらく馬車が走り去った方向を見続けていた。
人がいなくてよかったと思ってしまうほど。
見かねたカティスが三人に話しかけるまでアスベル達は動くこともなく、見つめていた。
バシーニードから脱走してから彼ら三人に一番近かった生命であるため、彼らがフィオラのことをどう気にしているのか、これこそ目は口ほどに物を言うということであった。
色々とトラブルがありながら(特にアスベル)も朝食を終えた三人は先日出来なかった観光をしよう、ということになった。
カティスから簡易的な地図を貰い、久方ぶりの観光へと出発していった。
カリオストロ国は今日も賑やかで明るい声が飛び交っていた。子供のはしゃぐ声も徐々に増え、人通りも多くなっている。
アスベル達は食べ歩き(アスベルのみ)をしながら回っていっていた。途中で果物のサービスなどを貰いながら見ていく。
「それにしても、栄えてるんだねぇこの国」
「これだけの人数がいるということはとても優れた王なのだろうな、この間の奴は」
「じゃなきゃこんなに人は集まらないわよね」
あまりの人だかりに押し流されそうになるもアスベル達は出店や商品を面白そうに眺めていた。
バシーニードにはなかった様々なものがここには多くある。アスベル達にとってここにあるもの全てがどれも新鮮なものなのだ。
「それにしても、このクレープって奴めちゃくちゃ美味しいんだけど! 」
先ほどまでにいれていた朝食は何なのかと思ってしまうほど飲むようにクレープを胃に入れていくアスベルにローラン、エルマは何かを諦めそうになっていた。
典型的な花より団子脳なのである。
「何度も言うが金のことをきちんと考えながら食え。借金増やすぞ」
「え! それは困るけど食べたいから気にしない! 」
「細胞から作り直す必要があるらしい」
「協力するわよ、ローラン」
そろそろローラン、エルマからしばかれる前に食事の面で自重して欲しいアスベル。
我々が蜘蛛の糸を垂らしても使い道が残っているときまでに。
するとアスベル達は見知った顔が見え、立ち止まる。
そこには宮廷に勤めているはずのロードナイツがいた。しかも周りの人からとても歓迎されている。
「あれってロードナイツだよね? どうしてこんなところに……」
不思議に思いながらもクレープを食べることを忘れない。
「あれじゃない? 見回りとか」
「確かにしっかりと武装しているな」
ローラン、エルマはロードナイツの格好を人混みの少ない隙間でしっかりと見ていた。
確かに
侍の黒露は刀の持ち手に腕を乗せている。
いついかなる時でも敵と合間見えることのできるようになっていた。クレープを食べ終えたアスベルがふと口にする。
「……そういえば、僕達彼らについて何も知らなくない? 」
「確かに前に一緒に依頼行ったときには全然聞けなかったわ」
「そもそも依頼自体俺達しかしていなかったから、どういう力を持っているのかもまだきちんと知らないな」
今ごろになって彼らのことについて知りたくなったアスベル達は近くにいた二人組の男性に聞くことにした。本人達が目の前にいるがとても聞きにくい。
そのロードナイツはいまだには国民から歓迎を受けていた。
「すいませーん」
「ん、なんだ。お前ら」
立ち飲みスペースで朝からアルコールを中心に飲んでいた男性がアスベル達にその目を向けた。
「あそこにいるロードナイツの方々について知りたくて……」
その言葉に男性二人は顔を見合わせると酒が入っているせいか上機嫌に笑う。
笑いが収まるとふぅと男性の一人が息を吐き、話し出す。
「もしかしてあれか? 村の方から来たっていうくちだろ? 」
「はい、そうなんです」
「やっぱりなぁ、仕方ねぇ。教えてあげようではないかぁ」
酒を飲んでいた二人はほろ酔い状態であったため流れるようにロードナイツの情報がでてきた。
「あの鳥人の兄ちゃんは
「え、ホークスアイさんって魔造器持ちだったんだ」
魔造器とは体内の魔素を構築して造ることができる武器のことであり、これを所持して生まれてくる者はごく稀である。
魔造器は魔力によって造られるため魔力が多ければ多いほど戦場において有利に立つ。
アスベル達の反応に気づかず、男性はまた話し出す。
「んでその隣にいる狐の獣人の兄ちゃんは断ち切りの黒露って呼ばれてるんだよ。刀の腕はピカイチ、足の速さでは誰にも負けねぇ。それとよく教会とかに行ってるらしいぜ」
「教会に? どうして? 」
「さあ、そこまでは知らねぇな」
そこまで言うと男性はぐびりと酒を飲む。
すると今度は別の男性が話し出す。
「あの金髪のお嬢ちゃんは何でも最年少で魔導学の試験全てですげぇ成績を叩き出した天才らしいんだよ。基本の……なんつったかな、火とか水とかそんなのは勿論、むつかしい魔法もなんでも使えるらしいんだぜ」
この男性は説明できていなかったが魔法、即ち「魔法学」について説明しよう。
魔法というものは魔力と知識があれば簡単に使いこなすことができる学問である。
魔法使いを目指す者であれば「魔法学」は必ず誰もが通る基礎であり、それを学ぶことを必須とする。
そして「魔法学」を極め、試験に合格したものが「魔導学」を学ぶ席を渡される。
その倍率は高く、一万人が受けても5人入るか入らないかの狭き門である。
次は「魔導学」についてである。
まず、基本となる炎の特性を持つ火焔魔導、水の特性を持つ
これを完璧に使いこなせてやっと「魔導師」という資格を貰うことができる。その資格を持っていれば自身の職業を「魔導師」と名乗ることもできる。
そして基本の魔導学三つを完璧に使いこなし、他の魔導学である氷の特性を持つ氷結魔導、大地の特性を持つ地律魔導、雷の特性を持つ雷鳴魔導、自然の特性を持つ
「なるほど、そんなにすごい人だったのか」
アスベルはこの間の依頼の道中のことを思い出す。
自慢されても嫉妬すらでてこないほどの実力をもっていたというのに、謙遜ばかりで今も先を追い求め、アスベルに尊敬すると言った少女のことを。
次にクリーシャの説明となったときに男性二人は酔っていたというのに顔をしかめる。
「どうした? 」
ローランが聞くと男性二人はまた顔を見合わせ、苦虫を噛みちぎった顔になる。
「その嬢ちゃんの前にいる奴が確かやばかったんだよな。色々と」
男性がそう言うともう片方の男性はうんうんと頷く。
理解ができていないアスベル達にもう少し近寄るように言った。
「あんま、大きな声では言えないんだけどな。あの
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