第22話 気まづくなると穴に潜りたくなる

「シンラ、ツェイリン」


「どうした? 」


「なんです? 」


アスベル達と別れた龍乱国出身の三人。

三人は一度部屋へと戻り、依頼へいくための準備をしていた。

ラオラオは支度をしていた二人に問いかける。


「ふた、り、とも、おこっ、てる? 」


耳をペタリと下げ、心配そうに聞く。

シンラとツェイリンはなんのことか分からず、瞬きを繰り返す。


「いえ、怒ってないですが……」


「なんでそう思うんだ? 」


「さっ、きの、ふたり、のかお、こわかっ、たから」


控えめに視線を落とし、尻尾も下がっているラオラオ。

シンラとツェイリンは顔を見合せ、否定する。


「怖かったですか? 」


「それはすまない。そんなつもりはなかったんだが……」


「さっきの、ひと、たち、きらい? 」


首を傾げるラオラオにシンラは笑顔で答える。


「さあ、それはどうだろうな」





「なんか気になるぅ……」


「さっきの奴らか」


「あぁ、なんか様子がおかしかったわよね」


支度を終えた三人は時間になるまでくつろいでいた。

そして話の内容は先程のBランクパーティーについてである。


「なんかさっきのラオラオ? っていう人以外なんか僕達のこと目の敵にしてるみたいで」


「まあ、敵にまわされるのも無理はないが」


「職員の話だと私達がくるまでは一番Aランクに近いパーティーって言われてたんでしょ? だったら多少の恨みくらいもってるんじゃない」


ローランとエルマの言葉にアスベルはこくりと頷く。


「そうだよねぇ……。無駄な争いはしたくないなぁ」


はあ、とため息をつくアスベル。

エルマも机の上においたコップの水を飲んでいる。


「私達、Aランクになって結構他のパーティーから色々言われるようになったわよね」


Aランクにあがってからアスベル達の周りではいい意味でも悪い意味でも知名度が上がっていた。

例えば町を歩けば色んな店から声をかけられ、無料で商品をもらうこともあり、出てるところが出てるお姉さん達からは誘いを受けることもある。(ローランは無視していくが女性よりも食べ物につられていくアスベルは大抵エルマかローランに叩かれる)

そして悪い意味では他のパーティーから陰口を叩かれることもあり、ギルド内でトラブルになりそうになったことがあるが大抵はローランを止める方にいってしまうため出禁をくらうまでにはいっていない。

ふと時計を見るアスベル。

長い針は10の数字を指していた。


「あ、そろそろ行く? 」


「そうね」


「分かった」


三人は部屋からでて外へと向かっていった。




「あ、きた」


ラオラオの声が外から聞こえ、アスベル達は外へとでた。

外ではシンラと柱に寄りかかるように立っているツェイリン、そしてラオラオがいた。


「えぇと、遅れてごめんなさい? 」


アスベルがシンラに首を傾げて尋ねる。


「いや、言った時間より早くきたんだ。遅れてなどいない」


シンラがギルドにかけられている時計をみる。

時刻は10時53分である。


「……そういう意味ではないんだけど」


早く来たつもりだったがアスベル達よりも先に来ていたシンラ達を待たせていたことを謝罪したアスベル。

であったがちゃんと伝わらなかった。

そう言われたシンラはなんのことか分からないのか、首を傾げる。


「生真面目そうだな……」


ローランはぼそりと呟いた。

しかし当の本人には聞こえていない。


「それでは全員集まったところで行きましょう」


ツェイリンは腰に手を当て、シンラを催促する。

シンラはハッとした様子でツェイリンの方を振り向き頷いた。エルマはいつの間にかラオラオに近づき、話しかけていた。


「よろしくね」


「う、ん! 」


尻尾をくるりと巻き、返答するラオラオ。

尻尾が揺れるだけで砂が少し舞う。

こうしてアスベル達は依頼へと向かっていった。

だが……




(空気が悪いーーーー!! )


口を閉ざしたアスベルの心の声が漏れそうになる。

依頼へと向かっている道中ではアスベルとシンラ、ローランとツェイリン、エルマとラオラオのペアになって進んでいた。

この組み合わせは大抵のものは自分と同じ種族の方へと集まってしまう本能的なところからである。


そのなかのアスベルとシンラ。


(全然しゃべらないんだけどっー! )


シンラの自分達への態度がいささか気になっていたアスベルは聞くことはしなかったが、距離を縮めようと会話をしようとするが。


「今日はいい天気だね! 」


「そうだな」


「絶好の討伐日和だね! 」


「そうだな」


といった感じである。

まるでゲームにでてくる同じ言葉しか話さないNPCである。

ロードナイツとの依頼を受けにいった道中の会話でパーティーはこういうものなのかと思っていたアスベルにとっては驚きのことだった。

そしてアスベルから始まった会話はほとんど一言ずつで終わっていくというループが続き、とうとうアスベルは黙ってしまった。

アスベルはちらりとシンラの方を向くが相手は気がついておらず、ただ前を見つめて歩いている。


(なんでかなぁ、やっぱり気に入らない奴とは話したくないのかなぁ)


黙々と考えるアスベルは無意識にシンラをじぃーと見つめていた。


「……おい」


シンラが顔も向けずにアスベルに話しかける。


「え、あ、はい」


「……俺の顔に何かついているか」


「いや、なにも……」


「なら見つめてくるな」


「すいません……」


申し訳なさそうにするアスベルにそれ以上は何も言わなくなったシンラ。

依頼をお願いしている立場であまり余計なことは言えないのだ。

そこからはまたしんみりとした空気が漂うがアスベルはこんなことを考えていた。


(会話、今のが一番長かったなぁ)





「なんです、あのお通夜みたいな空気……」


「知らん」


アスベルとシンラの後ろを歩いているローランとツェイリン。

この二人も特に話すことがなく、そもそもローランが無口ということでなかなか会話が弾まなかったが前を歩くアスベルとシンラの様子で少し空気が和んでいた。


「そういえばあなた。その首巻き、なんなんですか」


「首巻き? 」


ローランが頭半分高いツェイリンをみて首に巻いている紺の首巻きに手をかけた。

さわった拍子に金の輪が日光に当たって光り、首巻きの端が揺れる。


「これがどうしたんだ」


ローランの問いにツェイリンは不機嫌そうな顔をする。


「それ、洗ったのいつです? 」


「これを? そういえばこの頃洗ってな……」


「はぁーーー、やっぱり……」


言葉を遮るようなツェイリンのため息にローランは不思議そうな顔をする。


「その首巻き、見た感じまあまあ良さそうな品物なのに砂や埃だらけで……。なんてもったいないことを……」


首巻きを哀れな目で見、ぶつぶつとつぶやき出すツェイリン。彼が何を言っているのかローランは理解できていなかった。するとぶつぶつと呟いていたツェイリンの声がはたととまる。


「よし、決めました。この依頼が終わったらその首巻き、私が洗濯してさしあげます」


とツェイリンはローランに目を向けた。

ツェイリンの呟く声をBGMにして空を見ていたローランもツェイリンと目を合わせた。


「洗濯? 」


「ええ、洗濯です。この私が綺麗にしてあげましょう。その埃まみれの首巻きを」


胸をぽんと叩くツェイリン。その目は何故か生き生きとしており、朝出会ったときとは違う表情である。一言多いが。

ローランもそのツェイリンの顔に若干怪しそうに感じ、首巻きをくしゃりと握る。

しかし、ツェイリンはその手を指差し


「しわになるからやめて下さい! 」


と声を張って真横で言うためローランもおとなしく従った。


「本当にいいのか? 」


「ええ、お任せを。そういうのは得意ですから」


胸を少し張る孔雀の男にローランは「はぁ……」という気のない返事をしてしまった、いやそれしかできないのだ。

そしてツェイリンは返事も聞かずにまたぶつぶつと話し始めた。言葉に洗剤という単語が入っているため首巻きに使う洗剤について話しているのだろうがローランはそれを聞くこともなかった。




「ローランの意識、どこまでとんでんの……」


エルマの声にラオラオが反応する。

この三組のなかでは一番仲がよいペアである。


「ツェイリン、の、ふくについての、ちしきはすごいか、ら、ね」


ラオラオは困ったように頭を掻いた。

ラオラオもツェイリンの知識祭りの経験者のようだった。


「ツェイリンはおさい、ほう、とくい。ふくやぶれた、ら、ツェイリン、がぬって、くれ、るから、たすかる」


ラオラオは自身がきていた服をパタパタと振る。

そして服の至るところには糸でふさいだようなのがついた部分がでていた。


「へぇー、いいわねそれ」


「すご、くたす、かるんだ! それにふく、はすご、いきれい」


「洗濯好きなのかしら? 」


いまだに服から離れないエルマとラオラオ。

するとラオラオが「あ! 」と声をあげる。


「ん、どうしたの? 」


「エル、マ、にききた、いこと、が、あった、んだ」


「私に? 」


ラオラオはこくりとその頭を揺らし、頷く。


「……どう、して、おれを、こわが、らずにはなし、かけてくれ、たの? 」


朝、エルマの様子にラオラオは理解できていなかった。エルマはなんのことかわからなかったが思い出したようだった。


「ああー、あれね。身体はでかいほうがいいじゃない。だってその姿だった方が私はかっこいいと思うし、守れるものが多くなるわ」


自分を盾にするならね、とエルマは自分の胸を叩いた。そのエルマの様子にラオラオも瞬きを繰り返す。


「お、れ、かっこいいの? 」


「かっこいいよ」


「やっぱ、りその、ことば、すき! 」


ラオラオはまた嬉しそうに尻尾を横にふる。

エルマはそのラオラオの様子に笑っていた。


こうして約一ペアを除いてアスベル達は依頼の森まで慎重にかつ少し和みながら進んでいった。

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