第21話 フォークが歯茎に刺さると大抵静止する

朝。カリオストロ国は朝日で照らされ、エステル城の壁に反射して美しく光る。

そんなさわやかな朝からギルドではアスベルとエルマによる闘いが繰り広げられていた。


その理由はもちろん……


「もっと食わせろー! 」 


「やるか阿保ー! 」


「あわわわ……! 」


「うるさい」


朝飯の量である。

アスベルが3日前全財産を食事につぎ込み、一文無しとなった三人。アスベルには責任をとって一人で依頼にいってもらい、達成して帰ったはいいもののフィオラのクッキーの反応から反省してないと判断され、一週間しか食べてはいけないことになった。

もちろんそんな少ない量を暴食の魔塵であるアスベルが我慢できるはずもなく、開始してから2日で根をあげて今まさにエルマの朝飯を狙って襲いかかってきていた。

そんなアスベルの攻撃にもエルマはすぐに対応して皿を移動させてフォークをアスベルの頭にぶっ刺していた。


「たった一週間よ、我慢しなさいよ! 男でしょ! 」


「そういう考えいけないと思うなぁ! 」


いまだに攻防が続くアスベルとエルマ。

周りのパーティーも二人の様子に口があんぐりと開いている。

フィオラは慌てているというのにローランは気にもせずに食事を続けている。

しかしそれに目をつけたアスベルがローランの皿へと手を伸ばす。


「いただきま……」


一瞬。それはアスベルの額へと突き刺された。

アスベルはその反動で首が上を向く。

アスベルの額に刺さったのはまたもやフォーク。

ローランが手にもっていたフォークをアスベルの額に向けて投げたのだ。


「させるか、馬鹿」


普通の者であれば傷をつけることなどできないが同じ魔塵族であれば簡単に額に突き刺さる。

新しいフォークを机の上においてある匙入れから取り出し、また食事を始めた。


「よく食べれるわね、あんた」


「いでででっ」


アスベルの腕を反対に折りながらローランに呆れるエルマ。

いまだアスベルに刺さったフォークは抜けていない。


「あ゛ーお゛れ゛る゛ー! 」


「折れないわよ、多分」


「多分!? 」


エルマの言葉に必死で抜け出そうとするアスベル。が力はエルマの方が強いためなかなか思い通りにならない。


「あの、エルマさん落ち着いてください」


「ちょっと待ってね、フィオラ」


エルマはあいた手でアスベルの首を手刀で打つ。


「いっで! 」


痛みで動けなくなったアスベルをエルマはかついで部屋に連れていくことになり、食事を終えたローランが代金を払う。

アスベルをかついだままエルマは他のパーティーの方へと振り返り


「この馬鹿がお騒がせしてすみません」


と言って少し頭を下げて部屋へと向かった。

他のパーティーはエルマの謝罪を聞いたあとでもまた動き出すのにかなり時間がかかっていた。

とあるパーティーを除いては。




「いてて」


「大丈夫ですか、アスベルさん? 」


部屋に戻ったアスベルはフィオラから治療を受けていた。

エルマとローランはというとエルマは食事をできなかったのでフィオラから持ってきてもらった残りを食べ、ローランは本を読んでいる。


「これで大丈夫です」


白いリボンを揺らして救急箱を片付けるフィオラ。

アスベルはフィオラから治療してもらった箇所を優しく触っている。

鏡を見ると額にテープを張ったアスベルの顔が映る。

頭はさすがに髪を剃るということができずにアスベルからそのままでいいと言われ治療はされていない。


「あーイケメンな顔が……」


「私達、目には何もしてないわよ」


「脳かもしれないぞ、エルマ」


「辛辣ですね……」


アスベルの言葉にかなり厳しい言葉を返すローランとエルマにはフィオラも苦笑いを浮かべる。

食事を終えたエルマは額の傷を痛そうに触るアスベルの方へと目を向ける。


「まったくあんた全然懲りてないじゃない。フィオラ達にも迷惑かけて」


「それは悪かったとは思ってるけど……」


「皆さん、驚いていましたよね」


いつの間にか紅茶を用意していたフィオラが三人に配っていく。

アスベルは白い紅茶のカップが机におかれてすぐに紅茶を口に運び、美味しそうに飲んでいる。


「今日は国を回ろうと思ってたけど変更して依頼受けるわよ」


エルマはため息をついて紅茶を飲む。

ギャオス進撃によって観光を中断しなければならなかった三人。

今日はその続きとしてカリオストロ国を回っていく予定であったのだ。ローランも本を読んでしまったのかエルマの隣に座って紅茶を飲んでいた。ローランはギルドにきてから今日まででかなり速読になっている。 

アスベルはというと紅茶を口から吹き出しそうであった。


「え!? 今日観光しないの!? 」


「あれだけ迷惑かけておいてお気楽に観光なんてできないでしょ」


ショックで溶けていくアスベル。

がちゃっかりフィオラに紅茶のおかわりを頼んで最終的に残りを全てアスベルが飲み干してしまった。



それぞれ紅茶を飲み干した三人は早速依頼を受けるために一階へと下りていった。

フィオラもそのあとを追っていく。

さすがに先程のパーティー等も活動を開始しており、ギルドには活気がわいていた。

ギルド職員も慌ただしく仕事をしている。

そんななかアスベル達は掲示板にいこうとするとギルド職員の一人がアスベル達に話しかけてきた。


「すみません、よろしいですか? 」


「はい? 」


アスベルが反応するとギルド職員はとある方向に手を向けて


「実は皆さんと会いたいというパーティーがいらっしゃいまして……」


「私達と? 」


「はい。大丈夫でしょうか? 」


三人の顔を見渡すギルド職員。

まだ依頼を決めていなかった三人は特に急ぐ用もないのでギルド職員に了承する。

それでは、とギルド職員がそのアスベル達と会いたいと言っているパーティーのところまでいくことに。

フィオラとはここで別れた。



「こちらです」


ギルド職員の案内した場所には部屋があり、ドアが閉まっていた。

ギルド職員がドアを開けると目の前に白い壁が出てきた。

しかしよく見ると冷たい壁とは違い、ふわふわとした毛皮が生きているかのように波うっている。


「うわあ! 」


「? すま、ない」


ギルド職員の悲鳴のあと壁から声が聞こえ、その壁がのそりと動く。

壁の正体は身長2メートル半ほどの白虎の獣人であった。

エルマの耳と尻尾だけとは違い、その白い身体には黒の斑点模様が描かれ、顔は虎顔である。


「す、ぐに、どく」


「あ、ああ。すみません」


話し方に独特な個性がある白虎獣人。

すると白虎獣人の後ろから


「ラオラオ、右に行け」


「そこなら少しスペースがあります」


男と思われる人物の声が聞こえた。

ラオラオと呼ばれた白虎獣人が退いたあとアスベル達も部屋へと入っていく。

部屋のソファーには赤い着物を着た男と白い着物に身を通した白い孔雀の鳥人が座っていた。

彼らの後ろに先程の白虎獣人が狭そうに座っている。


「えっとどちら様で……」


部屋で出会った三人はアスベル達とはまったく認識のないパーティー。

アスベルも記憶を探ってみたが挨拶すら交わしたことのない。

そのアスベルの質問にはギルド職員が答えた。


「こちらは龍乱国出身のパーティーで今はBランクでいらっしゃいます。皆さんがくるまでは一番Aランクに近いパーティーと言われていたんです」


ギルド職員の紹介にソファーから立ち上がる男と鳥人。白虎獣人はその大きさのため立ち上がれない。


「紹介があった通りだが、俺はシンラ・メイレイ。龍乱国出身でこのBランクパーティーのリーダーとして活動している。職業は剣舞士だ」


男の黄土色の髪が揺れる。

シンラといった男が紹介したあと白い孔雀の鳥人の男が話し始めた。


「私はツェイリン・ランフェイです。職業は幻術士をやっています。どうぞよろしく」


ペコリとお辞儀する孔雀の目元には赤い化粧が施されていた。


「お、れ、ラオラオ・ニージャ。よ、ろし、く。モンク、やってる」


尻尾をくるりと巻き、ラオラオは答えた。

ラオラオの言葉が終わり、シンラがさてと話し出す。


「今日呼んだのはこちらから頼みがあったからだ」


「頼み? 」


するとシンラは懐から紙を取り出した。

それは依頼書であり、きれいに四つ折りにされている。

シンラはその依頼書を開き、アスベル達に見せる。

その内容とはネウスの森に出現したというスプリガンの討伐だった。

そして推奨レベルはB+ランク。

このB+というのはBランクパーティー一つとその他に同じBランクやその上のAランクのパーティーと共に行かなければ難しいといった依頼のランクを意味する。


「この依頼を俺達とともに受けてほしい」


シンラが真剣な顔で話す。

そしてアスベルの方を向く。


「お前がパーティーのリーダーだろ? 」


「はい! 」


「「はっ? 」」


アスベルの爽やかな返事を否定するかのような二つの低い声が重なる。


「あんた、なにいってんの? 」


「やはり脳の方が……」


「ひどくない!? 」


アスベルの悲痛な叫びにシンラは瞬きを繰り返した。


「……話を戻すが俺達とこの依頼を受けてはくれないか? 」


シンラの声にアスベルは胸をポンっと叩く。


「はい、します! 任せてください! 」


アスベルの自信満々の声にツェイリンが息を吐いてアスベルを見やる。

そしてアスベルが今まで気になっていたことをシンラに聞く。


「というかどうして僕達に? 」


そのアスベルの問いにシンラは


「Aランクのパーティーがいれば心強いから」


と答えたがアスベルはその答えに疑問をもっていた。

そんななかアスベルは何かに気づくように声をあげる。


「そういえば僕達の名前言ってなかったよね。僕は……」


「結構です」


今まで黙っていたツェイリンが答える。


「貴方達のことはとっくに知っています。色んな意味で有名ですから」


とツェイリンはアスベルを見た。アスベルはなんのことか分からないのか頭のなかにハテナのマークが浮かんでいる。


「こいつと一緒にしないでほしい」


ローランは人知れずそう思った。


「それでは11時に出発するから準備をしておいてくれ」


シンラはそう言うとツェイリンともに部屋をでていった。


「ラオラオ、行きますよ」


「う、ん」


ラオラオも二人の後を追おうとする。

そんなラオラオをエルマはじっと見つめる。

エルマの視線に気づいたのかラオラオが困ったように首を傾げる。


「な、に? 」


「あ、ごめんなさい。ずっと見てたら嫌よね」


エルマははっと気付き、すぐに謝罪した。


「ラオラオ、よね。かっこいいわ、その身体」


エルマのその言葉にラオラオは豆鉄砲を食らったような顔をする。


「こ、こわく、ない? 」


「怖い? いいえ全然。むしろもう少し誇った方がいいと思うわ」


よそよそしいわよ、とエルマは言う。

突拍子な言葉にラオラオはますます混乱する。


「は、じめて、いわれ、た」


「あら、そう? 」


エルマも意外そうな顔をする。

アスベルとローランも二人の会話を聞いている。


「あ、追わなくていいの? 」


「! いか、なきゃ」


ラオラオは慌てて振り向き、二人の姿を探す。


「そ、れじゃ、あ」


「ええ」


ラオラオはその身体をうまくドアに入れて部屋から出ていった。


「さっきの三人、なんだったんだろう? 」


「え、何がです? 」


ギルド職員がアスベルの声に反応した。


「あ、いやなんでもないです」


アスベルはそれには答えなかったがいまだ三人については抜けきれないところがあった。


「僕達のこと、あまりいい風に思ってないのかな……」

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