第18話 チョコチップクッキーこそ至高

「ただいま戻りましたぁ……」 


先程まで魔物達に見せていた勢いを一気に消し、よそよそしくギルドへと入ってきたアスベル。

ドアを少ししか開けずに隙間からぼそぼそと呟き、ギルドのなかを覗き込む。

アスベルから見えるところからはローランとエルマの姿はなかった。

そっと足音をたてないようにギルドの中へと入るが


「あ、おかえりなさいませ。アスベルさん! 」


もちろん意味がないことである。

フィオラの明るい声にアスベルの動きが止まり、フィオラに顔を向け口の前で人差し指をたてて合図をするが伝わってくれる前に


「なにやってんの、あんた」


「今帰ったのか」


ローランとエルマがアスベルと鉢合わせした。



「で、金は? 」


アスベルとローランの部屋に移動した三人。

アスベルは正座をしてエルマの前に座っている。

エルマは椅子に座って足を組み、アスベルを見下げるように見る。

その視線にアスベルも震えることしかできず、先程依頼を報告して手にいれた麻袋を危なっかしくエルマに渡した。

麻袋を渡されたエルマは中身を確認する。

重い空気が漂うなかチャリチャリというお金がぶつかる音だけが聞こえる。


「……これで全部? 」


「全部です……」


エルマの威圧で小さくなっていくアスベル。

エルマのため息と麻袋が机におかれる音がする。

ローランは一度おかれた麻袋を手にとって中身を見ていた。


「全部で350ペスねぇ……」


「半分にもいってないな」


「いや、あの依頼はちゃんと受けました……。高く売れるようにあまり傷をつけないようにしました……」


アスベルはだらだらと冷や汗をかきながら答える。顔を下に向けたままだ。

エルマとローランは顔を見合せ、エルマは足を崩す。


「アスベル、顔あげて」


エルマのその言葉で顔をあげるアスベル。

その顔は今にも泣きそうに歪んでいる。


「なんつー顔してんのよ」


アスベルの顔に若干引くエルマ。

ローランも目を見開く。


「もう今日はいいわよ。1日で一気に返せるわけないわよね」


「エルマと話し合ってアスベルには分割して返してもらうことにした」


麻袋をポンとアスベルの頭にのせたローラン。

バランスがうまくとられてあって綺麗にのっている。


「今日は350ペス。次にまた一人で行ってもらうからね」


「1日でこれくらいならまあ最低でも2回だな。反省しているならこれ以上は言わない」


ローランはそう言うと部屋のドアへと近づき、ドアを開けた。


「きゃっ」


悲鳴が聞こえる。

フィオラがドアに寄りかかるようにアスベル達の会話を聞いていたのだ。


「ご、ごめんなさい」


「そんなところにいたなら入ればよかったのに」


「え、とそのこれを渡したくて……」


フィオラは小さいバスケットを胸の前に持ってきた。

なかからは甘い匂いが漂う。


「クッキーか? 」


「はい。アスベルさん、今日は朝しかご飯を食べていないらしいのでお腹空いてるかもと思って……」


「クッキー!! 」


アスベルがその身体を跳ぶように動かすとそれを先読んだローランがドアを閉めた。アスベルの頭にあった麻袋はエルマがすんでで拾う。

アスベルは止まることができず顔からドアに激突するとそのままずるずると下にさがっていった。

そんなアスベルをローランとエルマはジト目で見つめる。


「……こいつ、懲りてないぞ」


「フィオラー。新しい依頼ざっと50枚持ってきてぇ」


その後フィオラの説得とアスベルの床までめり込んだ土下座によって今日再び依頼を受けることはなかったが、クッキーは没収され晩飯も20ペス分しか食べれなかったという。

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