第17話 はじめての(ぼっち)いらい! 1

アスベルは今カリオストロ国から少し離れたトドの森に来ていた。木には蔦が絡まり、岩には苔が生えている。近くには小川も流れている。


「始めようかな、そろそろ」


アスベルが受けた依頼は五つ。

一つ目はビッグスライム、二つ目はインプ、三つ目はラミア、四つ目はケルピー、五つ目はハーピー、の討伐だ。

数は多いがどれも報酬が高い上にランクが低い。

全部討伐しても怪しまれないくらいの依頼にしたためだ。


「まずはビッグスライム」


アスベルはまずビッグスライムの討伐から始めた。

ビッグスライムとはその名の通り普通のスライムよりも少し大きくなったスライムである。

戦闘能力は高くなく、魔法は使えるがどれも低ランクなものでビッグスライム自体は強くはない。

しかしこの依頼はCランクのものである。

その理由はビッグスライムの逃走率である。

ビッグスライムは他のスライムよりも逃げ足が早くなかなか討伐できず、捕獲も難しい。

今までビッグスライムを討伐しようとしたパーティーはほとんどビッグスライムから逃げられ、ヘトヘトに帰ってきていた。

それにビッグスライムは警戒心が高いため森中を、探し回っても姿を見せないこともあるという。

しかし、そんなことはアスベルにとっては関係のないこと。


「あ、いた」


木の根元らへんに隠れていたビッグスライムを見つける。

ビッグスライムは見つかるとは思っていなかったのか、その身体をびくっと揺らす。


「えいっ」


アスベルが剣でビッグスライムを突くとあっけなく絶命した。

ビッグスライムは数が少なく一つの森に一つと考えた方がいい。

そのため他のビッグスライムがここトドの森にいなければこれで依頼は達成となるが、アスベルはビッグスライムの気配を感じなかったためこれで依頼達成である。


「さて次は……」


依頼を見ながら進んでいくとカサカサと草が揺れる音がした。

するとアスベルのすぐ横にある木も揺れだす。

そこを起点として至る所から何かが草を揺らす音が響く。


「ああ、ちょうどいいや」


アスベルは一番近い木へと石を投げる。

ゴツン、という音とともに魔物が落ちてきた。

落下した魔物はインプである。

黒い身体とぽっこりと膨らんだ腹、赤い目のいたずら好きの魔物であるが旅人などに襲いかかって食べ物を根こそぎ奪っていくところが問題視され、討伐依頼が出された魔物だ。


「ギュギュ! 」


石のあたった頭からは血が流れ、インプは痛みでのたうちまわっている。

その様子をみて先程まで草を揺らしていたインプが大量にでてきた。

数はざっと15体。

皆アスベルの方を睨み、唸り声をあげている。

するとインプの一匹が待てなかったのかアスベルに向かって飛び込んできた。


「そーれ! 」


飛び込んできたインプを頭から真っ二つに斬る。

見事身体が左右に別れたインプの死骸が地面に落ちる。他のインプ達は変わり果てた仲間の姿をみて身を引きそうになっているが、アスベルを襲おうとするものもいる。


「ギュギュギュエ! 」


一匹のリーダーらしきインプの声に他のインプも一斉にアスベルへと向かっていく。しかし……


「よっと! 」


横へと振った剣はインプ達の目を切り裂き、何匹かのインプは首を裂かれる。

目と首から血を流すインプをアスベルは一気に討伐していく。

インプ全てを討伐し終えたアスベルは剣を赤く染める血を振り払った。


「こんなものかなぁ」


インプ達の亡骸を背にアスベルは次の依頼へと向かっていった。



「シャァァァ……」


「いる、いる」


アスベルは木の陰に隠れて次の討伐対象であるラミアを見つめていた。

ラミアとは上半身が長髪の裸体の女で下半身が蛇の姿をしている魔物である。

元々は人間だったと言われているが人間の言葉を話すことはできない。

そのため獲物を捕らえる際は美しい口笛で呼び寄せるのだ。目がない魔物であるが耳がいいためすぐに気付かれる。ラミアは子供が好物で近くの村の子供を食べてしまったためにギルドに討伐依頼を出された魔物だ。


「シャァァ」


「そろそろ行こうかな」


剣を抜いたままのアスベルはいまだアスベルに気付いていないラミアの背後へと距離を縮めていく。

そして背後に立つとその剣を振り下ろす。


「シャアア! 」


いきなり攻撃をされたラミアは驚きのあまり一度地面へと倒れそうになるが、内臓まで到達した傷の痛みに耐え、アスベルへと襲いかかる。だが、すでに構えていたアスベルから腕と首を斬られ絶命した。


「ラミアは確か髪と舌だったな」


依頼書を一度確認してラミアの必要な部位を解体して取り出していく。先ほどのビッグスライムはジェル、インプは耳と爪をアスベルは回収している。

ラミアの髪と舌を回収したアスベルはそれを麻袋に入れてこの先にある湖へと向かっていった。



トドの森の湖近くについたアスベルは剣をしまい、近くにあった丁度椅子になりそうな岩に腰掛けてふぅとため息を吐く。

そしていきなり声を張って叫び始めた。


「ああ、つっかれったなぁ!! 」


口を大きく開けて森中に聞こえるように叫ぶ。


「もう歩けないよぉ! 」


アスベルは疲れたと何度も連呼して脚を振り子のように揺らす。

まるで駄々をこねる子供のようだ。

それを続けているとどこからか足音が聞こえてきた。

森から姿を現したのは一頭の馬であった。その毛並みは美しく艶がある。

その馬はアスベルをじっと見つめて離れようとしなかった。


「あれ、あんなところに馬が……」


アスベルはわざとらしく気づいたようにするとその馬へと近づいた。馬の背を撫でれば少しだけ背を低くして、アスベルがのりやすいようにしてくれる。


「いやぁ嬉しい嬉しい」


馬の頭を触り、よしよしと撫でると馬は嬉しそうに尻尾を揺らした。そしてアスベルは早速馬にのることにした。するとアスベルがのったのを確認した馬が猛スピードで湖へと向かって駆け出したのだ。アスベルはその馬のたてがみから一切手を離さない。湖へもうすぐというところでアスベルはその馬の腹を剣で突き刺した。


「ヒヒィーン! 」


痛みが馬の身体中を駆け巡るが馬は止まらなかった。

そして湖についたときアスベルは馬の尻尾を掴み、グイッと上にあげたあとに剣でそれを切り落とす。

そこから馬は尻尾を刈られた痛みで暴れながら湖へと突っ込んでいった。

アスベルは隙をみて下りているため湖に入ることはなかった。

馬が突っ込んでいった湖には泡がプクプクと浮いている。湖の表面には赤い血が描かれていた。


「この方法はいいね、やり易い」


とアスベルは嬉しそうにする。

その声に答えるように湖から何かが姿を見せる。

それは身体の至る所に鱗があり、魚の尻尾の生えた馬の魔物・ケルピーだった。

ケルピーの背中には藻が生えており、鬣は水掻きがついている。

このケルピーは溺れて死んだ肉を好んで食べる。

ケルピーという魔物は先程アスベルに行ったように疲れてきっている旅人などを背中にのせて油断したところを湖へと連れていき、溺死したその遺体の内臓以外を食べるためケルピーが住む湖のほとりには人間の内臓が至る所に落ちていた。

このケルピーの性格は普段は臆病であるが、気が荒いところもある。

そのためなのか


「ヒヒーン! 」


アスベルを水のなかへと誘おうと服に噛みつこうとするケルピー。

だが、その願いも虚しく散っていった。

アスベルからケルピーは刺し傷をあたえられている。

そのためいつもよりも動きの鈍いケルピーはあっさりアスベルに討伐された。


「……それにしてもひどい場所だな」


アスベルが苦い顔で回りを見渡す。

湖の回りには大量の内臓があり、腐った匂いが辺りを漂っている。ケルピーがどれ程の人を食い殺したのかがよく分かる。


「さっさと行こう」


耐えられなかったアスベルは最後の依頼の場所へと向かった。



アスベルの目の前には断崖絶壁の谷。岩の壁が立ちはだかるなか空には三体の魔物が風にのり、飛んでいた。

その正体はハーピーである。

ハーピーとは女の顔と腕のかわりの翼があり、胸から下は羽毛が生えた魔物である。

ラミアのように子供をさらい、インプのように食べ物を奪っていく。それに加え、自らの糞尿を撒き散らしながら飛ぶためハーピーが飛んだという場所のほとんどが汚されてしまう。

そしてハーピーの顔はいつも張り付いたような笑顔を浮かべている。


「キャハハハ! 」


「キャアアッハハ! 」


「キャキャハハア! 」


ハーピーの笑い声のような鳴き声が谷にこだまする。

アスベルには気付いていないようなのかいまだ空を円を描くように飛んでいる。


「三体か。あいつら面倒くさいけど仕方ないか」


アスベルは断崖絶壁であるにも関わらずほんの少しの岩の突起を踏んでハーピー達がいるところまで跳んでいった。

魔塵族の並外れた身体能力をよく生かしていた。

さすがのハーピーも自分達に近付いてくるアスベルに気付き、笑っているような鳴き声を上げながらアスベルに突進してくる。

が、空中にいながらも自由自在に移動するアスベルにハーピーも苦戦している。


「まずは一体! 」


一体のハーピーの翼を切り落とすと翼を失ったハーピーは谷底へと落下していき、首の骨を折ってしまい絶命した。


「キャハハハァ! 」


ハーピーは落ちた仲間を見て怒り狂ったままアスベルに足を向け、爪で引き裂こうとする。

だが、それよりも早く動いたアスベルによって首を斬られる。

笑顔の張り付いた首とともに胴体は潰れたような音をたてて落ちた。


「キャア? 」


最後に残ったハーピーは状況が分かっていないようなのか首を傾げている。

そして慌ただしく翼を振ると崖の上にたつアスベルに向かって突風を当てる。

突風はかなりの威力で崖の岩が削れるほどである。


「キャハハッ! 」


ハーピーは楽しそうに笑いながら翼をはためかせる。

ハーピーの焦点はぐるぐると回り、アスベルをとらえていない。

その様子はあまりにも狂喜じみていて並大抵のパーティーであれば恐怖を抱くであろう。

だがしかしアスベルはその恐怖に屈したりはしない。

なぜなら


「目に砂が入ったぁ! 」


それどころじゃないからだ。

ハーピーの風がやんだとき、アスベルは何度も瞬きを繰り返し、涙目になった。


「キャハハ! 」


アスベルの様子が可笑しかったのか笑い出すハーピー。それにアスベルは黙っておらず


「なに笑ってるんだよ! 」


ハーピーに近くに転がっていた石をぶん投げる。

見事石はハーピーの額にあたり、ハーピーは白目を向いて落下していった。


「え、それで落ちるの!? 」


落ちていくハーピーを目で追っていくアスベルは崖の下まで下りていく。しかし、ハーピーはそのまま気を戻すこともなく、地面に叩きつけられ絶命した。


「……よーし回収回収」


変な形で終わったアスベルはハーピーを解体し始めた。これでアスベルが受けた依頼は終了した。


「依頼達成ー! 」


万歳! と言ってアスベルは意気揚々とギルドへと帰っていった。

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