第16話 食べ過ぎ注意

「言わなきゃいけないこと、あるわよねぇ……」


「申し訳ございませんでした……」


アスベルとローランの部屋には怒りで背後に黒い炎がでているエルマの前に土下座するアスベル。ローランも薙刀を片手にアスベルを見つめている。


「まさか有り金ぜーんぶ使うなんて……」


エルマは呆れたような顔でため息混じりで言う。

エルマ達が怒っている理由、それは昨日の出来事のせいである。



昨日、ロードナイツと別れた三人。ロードナイツから700ペスも貰ったこともあり、かなり調子にのっていたアスベルはいつも控えていた食事の量を少し解放することに。

いつもは頼まない、頼めない料理をメニュー制覇の如くアスベルは頼み始めていた。

ローラン、エルマも多少多くてもいいかと半ば便乗して料理を食べていた。

だが、ここからである。

ローラン、エルマは食べ終わったはいいがアスベルはまだ料理を頼み、箸や匙を使って美味しそうに料理の皿を空にしていく。

時間として午後の21時。

自分達の食事の会計を終え、アスベルが食べ終わるのを待っていたローラン、エルマもさすがに眠くなってきていた。


「アスベル、私達寝るから。ちゃんとお金のこと考えて食べてね」


「きりのいいところで上がってこい」


「りょーかーい」


口に食べ物を加えたままで話すアスベル。

エルマもそこまで考えないほどの馬鹿ではないでしょ、とローラン共々アスベルを置いて部屋へと戻っていった。



朝方、午前6時半と少し早めに起きたエルマ。ローランもそのうち起こしにいこうと階段を下りていき、受付などがある一階まで来た。

何気なく、食堂の方へと目を向けると


「プハー、おいしかったぁ! 」


スープを飲み干したアスベルの姿があった。

その周りには空になった皿の山が7つ。


「ごちそうさまでした! 」


「お、おそまつ、さ……」


店主と思われる男性が膝から崩れおち、床に倒れてしまった。そのまま気絶するように寝ている。


「あれ、大丈夫ですか? 」


倒れた店主の方へと駆け寄り、心配するアスベルの机にある絹袋と麻袋の中身を見たエルマ。

中身は空。

昨日、ジャラジャラとなっていた金はどこへやら。

エルマの袋をもつ手が震える。

アスベルはエルマに気づくと嬉しそうに話し出す。


「おはよう、エルマ。いやぁ料理がどれもこれも美味しくてさ。さっき飲んでたスープは無料の上に凄く野菜の味がでて……」


「この……」


「? エルマ? 」


エルマの怒りが噴火の如く込み上げた。


「この阿保おぉぉーーーー!! 」


エルマの怒りの声はギルドだけではなく、静まり返ったカリオストロ国にまで響いた。


「…………朝か」


だが目覚めの悪いローランにとってはよい目覚ましとなった。




「それでどうしてくれるの? ア、ス、ベ、ル、さ、ん? 」


さすがにギルドの受付前で怒ることもできず、アスベル達の部屋で先程よりも強めの圧をアスベルにかけながら問うエルマ。一応ギルドマスターのカティスから頼まれ、フィオラも部屋にいた。


「お金ですか……? もっもちろん返しますとも! 」


「どうやって? 」


エルマの圧に押され、敬語になるアスベル。

冷や汗がタラタラと流れている。

アスベルの困った様子にローランは仕方なく空になった袋を逆さに持ち


「昨日まであった800ペス+宿泊費をお前一人で稼いでこい」


と言い放つ。

それにエルマも賛同する。


「いいわね、それ。アスベル、あんたに拒否権はないから」


「え!? 一人で!? 」


「エルマさん、さすがに一人でクエストは危ないのでは……」


今まで黙っていたフィオラもギルド職員としてさすがに黙ってはいなかった。依頼というものはパーティーにいる人数が少なければ少ないほど危険度が増す。

その分、準備も怠ることなどできない。


「大丈夫よ、低ランクの依頼を受ければ。無理じゃないわよね? 」


エルマの恐ろしいほどの笑顔を浮かべ、アスベルから目を離さない。

ローランは飽きたのかベッドに座って本を読んでいる。

フィオラはエルマとアスベルの様子にあたふたとしている。


「いや、無理ではないけど……」


「ないけど? 」


「一人は寂しいなぁ! 」


「さっさと行けっ」


エルマはお茶らけた風に言ったアスベルの首根っこを掴み、部屋の外へと追い出した。


「僕の部屋だけど!? 」


アスベルの声の答えなど返ってくることはなかった。




「まったくエルマもローランも……」


掲示板の前に立ち、依頼を決めていくアスベル。

ここ宿ギルドは多重依頼受付可能で依頼に書いてある場所が一致しているクエストを二つ以上受ければ達成するのは大変ではあるが報酬は依頼を受けた分をしっかり受けとることができる。

中級パーティーがよくする方法であるが、多重受付をするためにあまりにも低ランクの依頼ばかり受けていると下級パーティーの依頼がなくなってしまう。

そういうところにも配慮してギルドでは大抵は5つで切るようにしている。

多重依頼受付は良いところがあるが、二つの依頼を受けてもしあと一つ達成できなかったらもう一つの依頼を達成しても打ち消されることがある。

そのためどのパーティーもあまり上のランクのものを選ばずに下級、中級の依頼を選ぶことが多くある。

それも問題の一つとなっている。

アスベルもその説明をされ、できるだけ怪しまれずにできそうな依頼から順(報酬もいいやつ)に選んでいく。


「まあ、お金を使いきったのは僕だし、仕方がないか」


はぁ、とため息を吐く。

掲示板から依頼を剥がした。その数は五つあり、すべて魔物を討伐する依頼だった。

だが、それもあってか一つ一つの報酬が高く充実していた。


「こんなものかなぁ」


剥いだ依頼を並べて受付へと提出する。

受付はこの前若い男性とは違う女性の職員だった。


「これお願いします」


アスベルが五枚の依頼書を職員に渡す。


「はい。あ、多重依頼受付ですね」


アスベルから貰った依頼書とアスベルに目を配らせると職員が不思議そうな顔をする。


「お一人で受けるんですか? 」


確かに職員からしてみれば多重依頼は主にパーティーがすることが多い。その方が上手くパーティー全体で回ることとなり、一人が苦労するということが少ないことが特徴である。


「お一人で受けるよりも他のパーティーと一緒に達成した方が危険が少ないと思いますが? 」


首を傾げる仕草をする宿ギルドの職員。

だがアスベルも引くことができなかった。

もし、ローランとエルマに一人で依頼を受けてなかったことを知られたもう一度行ってこいとまた追い出されてしまう。

エルマの恐ろしい表情が浮かび、慌てて頭から消す。

これ以上あれを思い出していれば冷や汗でびっしょりになってしまう。

真顔になりそうなのを我慢して


「はい、大丈夫です。何だったらあともうちょっとぐらい受けれます」


などとふざけたように言っている。

職員はそんなアスベルの様子を不思議そうに見つめている。

がどこでそう感じたのか職員も平気だと思ったらしい。


「それでは依頼に判子を押していきますね」


そこから職員は判子を取り出し、アスベルから渡された依頼書に次々と判子を押していった。

五つの依頼書に判子を押し終えた職員はアスベルへと依頼書を渡す。

アスベルは依頼書を手に取り、早速依頼のためにギルドからでようとしていた。

しかし誰かに声をかけられ、立ち止まる。

声の主はフィオラだった。


「あれ、フィオラ。どうしたの? 」


「心配になって……。一人で依頼を受けるのはやっぱり危ないのではないですか? 」


白いリボンが頭を動かす度にヒラヒラ動く。


「いやいや心配いらない。僕は大丈夫だよ! それに一人で受けないとエルマから怒鳴られそう……」


声が小さくなるあたり、よほどエルマのあれがトラウマになったのかと思ってしまうほどだ。


「……もし、危ないと思ったらすぐに帰ってきてくださいね」


「うん、ありがとう。お土産はできるだけ多めにもってくるよ」


心配するフィオラの声を背にアスベルは依頼へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る