第15話 虎穴に入らずんば虎子を得ず
「あ、見えてきました」
エレイネが指を指す方向には洞窟があり、穴は縦4メートルはある。
風の音が洞窟の中でこだまして聞こえる。
「ここか。あ、作戦どうします? 」
「一般的な討伐方法でも構いませんが……」
クリーシャが顎に手をあて考え込むとエレイネに尋ねた。
「お嬢様、ここは彼らに任せますか? 」
アスベル達は耳を疑った。
「ええ、そうね。私もあの人達の力を見てみたいわ! 」
エレイネの答えにレオナルドと黒露は苦笑いである。
レオナルドに至っては今日は出番ねぇかもな、などと話している。
「ということで、トロール退治にはあなた方で行ってもらいます」
有無を言わせない、いや言わせないといけないが絶対NOとは言わせるつもりはない雰囲気を出すクリーシャ。
アスベル達はほぼ強制的に依頼をさせられることになった。
いや、そもそもアスベル達が受けた依頼なので間違ってはいない。
「え、一緒にするんじゃないんですか? 」
「ごめんなさい。今日は皆さんの実力がどれほどのものかを見たくて依頼を一緒にしようと言ったんです」
「私達の実力? 」
「はい、あなた方はAランクになったばかり、それ以前にギルドに入ったばかりの新人。そこであなた方が日頃からどのように依頼を受けているのか気になりましたからね」
「君達には申し訳ないだけどね。危なくなったら助けにいくから」
「普段通りに受けてくれよ」
ロードナイツからの言葉を受けてアスベル達とロードナイツは洞窟へと入っていた。
なかは暗く、歩きにくい場所であったがエレイネの魔法「
洞窟のなかは宝石などを発掘していたこともあり、人の手が加わり、整った形だった。
「あら……」
「おや……」
歩いていたエルマと黒露が耳を動かし、立ち止まった。
そこで一向も立ち止まることに。
「近いね……」
エルマ、黒露にはトロールの足音が聞こえていた。
「そろそろか」
ローランが薙刀を抜き、アスベルも剣の持ち手に手を置いた。
そこから一向はまた洞窟のなかを先程よりも注意しながら進み始めた。
ある程度歩を進めたアスベル達とロードナイツ。
トロールの気配に気付き、また立ち止まる。
止まることでトロールの足音や地響きが直に響く。
「あれですね、トロール」
壁から身体を出さずに目だけをトロールに向ける。
トロールは背中に苔がびっしりと生えており、巨大な木の棍棒をもっている。
「それじゃあ、頑張ってくださいね。討伐方法はやりやすい仕方で」
エレイネが笑顔でそう言うとロードナイツは少し離れた場所へと移動した。
だがきちんとアスベル達の行動がよく見える場所だ。
「任されましたぁ……」
アスベルは小声で言う。エレイネ達を見送ったあと早速三人は必要ではないであろう作戦会議を開始した。
「どうする? めっちゃ見られてるけど」
「いつもみたいねぇ。誰もいないと普通に力だして殺るんだけど」
「今日はそれができないな」
三人はお互いの顔が見れるように円の形で話している。
薙刀を片手にもつローランは持ち手を肩にとんとんとあてている。
「洞窟の外にでてやる? でもまあまあな距離を歩いたよねぇ」
「そんなことするくらいならここでぶっ倒すわよ」
拳をパンッと手のひらに当てるエルマ。
やる気満々なのだが、エルマは怠惰の魔塵である。
このように好戦的だと怠惰を背負っていることを忘れてしまう。
「あまり下手なことはできないだろ。さっさと殺るんじゃなくて少しずつ傷つけていけばいいじゃないか」
アスベルが言うにはまずトロールの足の筋を切り、腕を落とす。それで動きを封じ、そこから首を切り落とすことになった。
「できるだけ時間をかけてやろう。僕が足、ローランとエルマが腕で別れてやろう」
「仕方ない」
「まあ、いつもよりちょっとは加減をするけど……」
一応了承したローランとエルマ。
三人はすぐさまトロール討伐を始めた。
「おーい! 」
アスベルはトロールに向かって大声をかけると近くにあった石を投げる。
トロールは声と身体にあたった石でアスベル達に気付き、棍棒を振り回しながらその巨体を揺らし近づいてくる。
だが、その巨体ゆえ動きが遅くアスベル達の近くにくるときには対象物の三人はいなくなっていた。
「ゲアァ? 」
「それっ」
アスベルがトロールの片足の筋を剣で切るとトロールの片足は使えなくなり、トロールは片膝をついた。
「俺は右へ行く」
「なら私は左! 」
ほぼ同時に腕へと飛びかかり、腕に骨まで到達するほどの傷を追わせる。
その衝撃の流れにのって二人は壁に着く。
「ゲアッア! 」
四肢ともに傷を負ったトロールが咆哮をあげる。
がローランとエルマの攻撃があれだけで済むはずがなかった。壁を蹴り、今度はローランは左、エルマが右の腕めがけて攻撃を繰り出した。
音をたてて腕を切り、その腕は地面へと落下する。そしてアスベルも立ち上がろうとしていたトロールのもうひとつの足の筋を切る。
「ゲアァアアア! 」
こうしてとうとう身動きがとれなくなったトロールはアスベル達に一撃は食らわせてやりたいと口を開き、牙のびっしりと生えたそれをアスベルへと向けた。
「僕食べてもおいしくないよ」
そう言ってトンと地面を蹴り、トロールの肩を切り裂いた。
その様子をロードナイツはじっと見ていた。
心なしか楽しそうである。
「すげぇな、あいつら」
レオナルドは腰に手をあて、岩に身体を預けている。
アスベル達の動きをみて特に反応がいいエレイネと同じように観察している。
「助けは必要なさそうだね」
三人を心配していた黒露がホッとしたような表情をする。
クリーシャも回復魔法を準備してはいたがアスベル達の様子をみて発動しようとすることもやめた。
「……予想を超えられました。あれほどのチームワークに個人の実力も申し分ないようですね」
クリーシャの言葉にエレイネはコクりと頷く。
「アスベルさん達は本当に凄いんですね! 」
トロールの討伐もそろそろ終わりそうになっている。
ロードナイツは三人の戦い方を見落とさないようにまた観察を開始した。
「そろそろいいかな」
トロールの背中にうまく着地し、首に剣を当てる。
「さすがにこれは一瞬で……」
そのままアスベルは剣を横へと滑らせるように振るとトロールの首は綺麗にスパンッと跳ねられ、後頭部から落ち地面を汚す。
頭を失くした身体は前のめりで倒れていく。
激しく地面が揺れてトロールの亡骸が地面へと覆い被さった。
アスベルはトロールの背からうまく跳び、着地する。
ローランもエルマもとばっちりを受けないように離れていた。
「いつもよりも少し遅めで終わったけど……」
とアスベルは言いながらロードナイツを探すためにキョロキョロと辺りを見渡す。
すると奥の方からひょこっとエレイネが顔をだした。
「いた」
それを見たローランがそっけなく答える。
ロードナイツのエレイネはパタパタと走りだし、アスベル達の元へと行く。
「凄かったです! 本当に! 」
興奮した様子のエレイネをアスベルは落ちつかせる。
そういうのにはあまり慣れてはいない。
「皆さんの無駄のない動きと素晴らしいチームワークでの戦い方はやっぱりすごいものですね! 」
「いやぁ、そんな誉められても……」
頭をガリガリと掻くアスベルは嬉しそうに笑う。
レオナルドも三人の顔を交互に見ながら
「こんだけすごけりゃ問題ないな」
「ここまでとは思わなかったよ」
アスベル達に対してかなりの興味をもったようだった。
「Aランクにあがるほどの実力は本当だったんですね」
半信半疑だったクリーシャもアスベル達の力を間近で見て信じ始めていた。
しかしいい気分になったアスベルが周りを見渡すとトロールの死骸がでかでかと置いてある。
「……うーん、ここではなんだから一回外にでましょう」
アスベルの提案でアスベル達とロードナイツは洞窟の外へとでることになった。
洞窟をでたあとアスベル達とロードナイツはカリオストロ国まで行き、ギルドへと依頼を達成したことを伝えにいった。
ロードナイツは外で待機しておくことに。
ギルドの扉を開けるとフィオラと偶然あった。
「あ、お帰りなさいませ」
フィオラの明るく、大きな声の「おかえり」に返事をするアスベル達。
「依頼、どうでしたか? 」
アスベル達へと近づき、尋ねるフィオラ。
「まあ、クリアはできたよ」
「ちゃんと素材を剥ぎ取ってきたわよ」
麻袋に入った素材をフィオラへと渡すとフィオラは中身を確認し、ギルドマスターへともっていくことに。
その間にアスベル達はロードナイツに挨拶をしにいった。
「すみません、待たせてしまって」
アスベルが丁寧にそう言うとギルド前で待っていたロードナイツのエレイネは両手をパタパタと振り、否定した。
それに加え、ロードナイツがここまで来ているのが珍しいのか何人かの人だかりもできている。
「大丈夫ですよ! 今日は本当にお疲れ様でした! 」
エレイネの言葉のあとにクリーシャが絹でできた袋をアスベルに渡した。それに触れるとチャリンという音が聞こえた。
中を見ると700ペスが入っていた。
「これって……」
「今日はいきなりあんなことを言ってしまいましたから……。そのお詫びのようなものです」
申し訳なさそうに話すエレイネであるがアスベル達にとってそれは宝石よりも価値があるもの。
そのお金の多さにアスベルの口から涎がでそうになっている。
「今日は面白いものがみれたぜ、ありがとうな」
「また機会があったら今度は一緒に依頼をしよう」
レオナルドと黒露は笑顔で言う。
クリーシャも
「これも何かの縁ですからね」
と付け加えていた。
エレイネは名残惜しそうだったが
「今日は本当にありがとうございました。それでは失礼します! 」
アスベル達はロードナイツと別れ、またギルドへと戻っていった。
ギルドへと戻った三人はフィオラから報酬を受け取り、腹も減ったため食事を済ませることになった。
それが新たな悲劇を呼ぶことになったことを三人はまだ知らない……。
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