第13話 遊びで指輪をつけて抜けない時が一番怖い

今、アスベル達はカリオストロ国の白亜の城・エステル城に来ている。

ギャオス討伐後、アスベル達はロードナイツの面々に半ば強引に城へと引っ張られてここまで連れてこられた。

そしてなぜか彼らはエステル城の君主レーデル・フォン・エステラクスの前にいる。


赤い玉座に座る白髭を蓄えた国王の周りにはアスベル達に目を光らせる兵士達とアスベル達の後ろには先ほどギャオスを倒したロードナイツがいた。

囲まれている。


(なんでだぁぁ……)


(そりゃ目をつけられるわよね……)


(眠い……)




アスベル達の心の声である。ローランは平常運転だ。


「君たちだね。近頃話題になっているパーティーは。ギャオス討伐に加担してくれてありがとう」


国王のレーデルが座りながら頭を下げる。


「え、いや僕らなにもしていないですよ! 」


「何を言う。ロードナイツから聞いたがお主等がギャオスに脱皮をさせたことによって思ったよりも早く討伐できたと言っておったのだよ。それは素晴らしい成果であるぞ」


フォッフォッフォと髭を触りながら笑う国王。

アスベルが振り替えるとそれに気づいた魔法使いの少女がにっこりと笑う。

余計なことをと思ったアスベルであったがここでそんなことを言えるわけがない。


「ギャオスが近くで目撃されたというのを聞いてロードナイツ達には警戒をさせていたのじゃ。ギャオスのような魔物に太刀打ちできるのはこの国ではロードナイツしかいないからのぅ」


それを聞いた騎士団と思われる兵士達が首をすくめた。騎士団長と思われる男性を苦い顔をしている。肩身が狭そうである。


「だが、お主等のような者がいるのなら心配はほとんどないようなものだな」


上機嫌な国王にアスベル達は目をそらす。

彼らは嫌な予感しかしなかった。頼むからまずいことにはならないように、と 信じてもいない神に祈るだけ祈る。


「そんなお主等に褒美を授けよう。受けとるがよい」


そう国王が言うと近くに待機していた配下の一人が紫色の豪華な装飾が施されたクッションをもってアスベル達に近づいてきた。

その上には指輪がのっている。


「こちらを」


アスベル達の前にクッションを近づけた。それを受けとれということかと思い、上にあった指輪をアスベルは受けとる。

配下はまた自分がいた場所へと戻っていった。


「えっとこれは……」


「それは妖精の指輪というものでね。妖精の加護がついている代物だよ」


「よ、妖精……」



それは銀の指輪に蝶のような羽根と宝石がついているものだった。戸惑うアスベルとエルマ。

すると指輪をみたローランが突然胸に手をあて、頭を下げた。


「これは素晴らしい品をありがとうございます。ありがたく使わせていただきます、王よ」


普段とは違うローランの言動にアスベルとエルマが度肝を抜いた。

開いた口が塞がらないとはこのことだ。

周りの兵士もお前が言うかい、という顔をしている。先ほどまでのローランの様子をみてそんな行動をとるとは思わなかったのだろう。


「フォフォフォ。よいよい、これからも頑張ってくれたまえ」


国王はそれといって気にしていなく、ローランの対応に嬉しそうにしていた。

その後無事? に玉座の間からでたアスベル達はローランに問いただした。

幸運なことに彼らの他にはだれもいない。


「ちょっとローラン、さっきのなに? 」


「さっき? ああ、あれか」


ローランはめんどくさそうに答える。本当に眠そうだ。


「僕ビックリしたんだけど。そんなことどこで知ったの? 」


「本」


「「本!? 」」


見事にハモったアスベルとエルマ。

声がまあまあ大きかったため急いで口を押さえる二人。


「本ってどういうこと? 」


「ギルドで暇潰しで読んだものだ。バシーニードにはそんなものはなかったし、興味があってな。たまたま目に写った本を読んだんだが、内容に男が王と会う話があってそのときとった行動を真似しただけだ」


そう言うとローランは欠伸をした。昨日遅くまで本を読んでいたせいである。


「確かに昨日何か読んでるなとは思ったけど……。驚いたよ、本当に」


「早く出たかったのもあるからな。ああすればすぐに出られると思ったんだ」


ローランが言い終わると同時に玉座の間の扉が音をたてて開き、中からロードナイツがでてきた。

三人の姿に気づいたのか「あら」と少女が言う。


「まだいらしたんですね」


「すみません、すぐどきます」


少女の言葉にアスベルはローランとエルマの背中を押しだした。


「いえ、そういうことじゃなくて……」


帰ろうとする三人を止める少女。その声にアスベル達はピタリと止まる。


「お話しませんか? 」


あまりにも可愛らしい笑顔を浮かべる少女の誘いに断れるはずもなく、そしてその少女の後ろにいる聖騎士パラディンの女性の断るな、という謎の圧に当てられアスベル達はその誘いを了承した。




「はじめまして、皆さん」


城内にある外を閲覧できるテラスへと移動したアスベルとロードナイツ。早速ロードナイツの少女が自己紹介を始めた。


「私はこのロードナイツのリーダーをやらせていただいています。コルパトルテ・エレイネ・ランバルディと申します。職業は魔方師メイジです」


杖を胸の前で握り、片手でスカートをあげるエレイネといった少女。

次は少女の隣に立つ女性が話し出す。


「私は聖騎士をやっています、クリーシャ・レイズレイスです。お見知りおきを」


ペコリと頭を下げるクリーシャ。真面目な面持ちで成人している女性だ。すると頭をあげたクリーシャはアスベルとローランを見つめる。


「あなた方は誰かお付き合いしている方はいらっしゃいますか? 」


「へ? いや、いませんけど……」


「そうですか……」


一度目を閉じたクリーシャはまたゆっくりと目を開けた。その目には鋭い殺気を感じる。


「もしお嬢様に手をだそうとしたらこの私が許しませんから」


そう言うクリーシャの槍を握る力が強くなったのがよく分かる。槍がギリギリと唸ったからだ。その音に顔が青白くなりそうなアスベル。ローランは額にシワを寄せる。

クリーシャを宥めるエレイネ。


「あぁーまぁ、気にするな。少し嬢ちゃんに対して過保護なだけだ」


鷹の鳥人の男性が苦笑いを浮かべた。赤いハット帽を手で押さえている。


「俺はロードナイツで弾撃者ガンナーをやっているレオナルド・ホークスアイだ。よろしくな」


腰に携えた小銃を見せるレオナルド。するとレオナルドはローランの方へと身体を向ける。


「というかあそこであんなこと言うなんてな」


レオナルドもさきほどのローランの行動に驚いたらしい。


「面白い奴だな、お前」


爽やかな笑みを浮かべるレオナルド。ローランもそういう反応されると思っていなかったのか怪訝な顔をする。

レオナルドはローランへと手を差し伸べた。


「同族でここまでくる奴あんまりいなくてよ。仲良くしようぜ」


レオナルドの言葉にローランは目を少し開いて固まった。ローランの一向に握手を交わさない様子にレオナルドは不思議そうに首を傾げると


「握手はダメ、な方か? 」


とローランに尋ねた。もちろんそういうわけではないローランはレオナルドの顔と手を交互に見ながら手を伸ばし、握手をする。


「……ああ、よろしく」


そう言うと満足したのかレオナルドがニカリと笑う。


「僕は 笠霧黒露かさぎりこくろ。狐の獣人でね。侍をやっている。よろしく頼む」


誰もが振り向きそうな整った顔をもつ黒露はペコリと頭を下げた。


「? 珍しい名前の造りね? 」


エルマが不審そうに尋ねる。それに黒露は爽やかに笑う。


「僕は他の三人とは違ってね、大和国からきているんだ。だから名前の造りも違う」


丁寧に教える黒露にエルマは「へぇー」と驚いたように答える。

彼は確かにこの国では珍しい黒髪、黒の目をもっていた。

クリーシャを宥め終えたエレイネが三人に質問をした。


「皆さんのお名前を教えてくださいませんか? 」


「名前? 」


三人は顔を見合せ、アスベルから答える。


「僕はアスベル・ダースマン。食べるのが好きです!」


余計なことを言うな、とエルマに叩かれる。


「俺はローラン・アルパトラだ」


「私はエルマ・アメスアメル……です。よろしく」


ローランは無表情でエルマは口角を少し上げて使いなれていない敬語で名乗る。

自己紹介が終わるとエレイネは三人に質問をした。


「皆さんがFランクのとき、Sランクの魔物を討伐したと噂で聞いたのですが、どのように討伐を?」


「へ!? えぇーと、それは……、寝ているところを三人で協力してバサリと……」


控えめに答えるアスベル。しかし、その返答にエレイネは輝くような笑みを浮かべる。


「寝ているところを! 私達も寝ているところを狙ったことはあるんですが最終的に起きてしまって戦闘になったので成功したことがないんです! すごいですね!」


興奮気味なのか杖を持たない片手を上下に激しく振るエレイネの姿にアスベルは苦笑いを浮かべる。話がここまで及んでることに三人は内心驚いていた。

エレイネの瞳を輝かせる姿はまるで幼い子供のようだ。その目の中は星が瞬いているように見える。


「なんだかますます皆さんのことが気になってきました! 皆さんの実力も気になります! 」


未だに杖を持たない片手の拳を上下に振るエレイネ。

するとその動きがふと止まる。


「そうだ。皆さんにご提案があります! 」


アスベルへと顔を近づけるエレイネ。

それに反応したクリーシャはレオナルドと黒露に止められた。

顔をいきなり近づけられたアスベルは驚いて顔を少し後ろに引く。


「私達と一緒に依頼を受けませんか! 」


その言葉にアスベル達は石のように固まるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る