第12話 雨のなかで雷に打たれても生存する可能性があるところで打たれたくはない

「ガアアア! 」


ギャオスの咆哮が響き、空気がびりびりと震える。

ギャオスが尾を振ると城壁の破片が破壊され、家屋に突き刺さる。翼を羽ばたく風圧で屋根が吹っ飛んでいく。

そんななかアスベル達はそれらを避けながらギャオスへと向かっていく。

ギャオスもそれに気付いたのかアスベル達に向かって攻撃を仕掛けてくるが、魔塵族であるアスベル達にそんなものが当たるわけもなく、ただただギャオスとの距離が縮んでいくだけだ。


「バンバン打ってくるの邪魔だなぁ」


破片をよけながら嫌そうな顔をしているアスベル。当たっても傷はつかないが痛いものは痛いのだ。


「それっ! 」


飛んできた破片を剣で切り裂く。真っ二つに割れた岩はアスベルの横を通って崩れていく。

突き進んでいくアスベル達をギャオスが止めることなどできるはずもなく、とうとうギャオスの目前へと三人はたどり着いた。

アスベル達は城壁をつたい、飛び上がる。


「グルォ!? 」


「お家にお帰り! 」


アスベルは頭、ローランは右の腕、エルマは左の腕を狙い空中で武器を構えた。そしてそれを振り下ろす。

バキッと鱗が砕ける音が響く。

その衝撃を身体に纏い、空中を回転して城壁へと着地する。


「グオオオオ! 」


痛みによって咆哮をあげた後ギャオスはその首と翼をくたり、と下げた。

周囲の者はアスベル達が倒したと思い、戸惑いの声と歓声が上がる。しかしアスベル達はそのギャオスの姿に眉を潜めていた。


「手応えがなかった……」


鱗へと力を加えたときあまりにも柔らかく感じたのだ。

それはローラン、エルマも同じ。そしてその違和感は的中した。

パリッとまるで薄い皮が力なく割れたような音、それがギャオスの背から聞こえた。ひびが割れ、それはだんだんと身体全体に広がっていく。その音は意外にも大きく、騒いでいた国民にも聞こえるほどだ。

ギャオスの脱皮だった。

そう、アスベル達は斬ったのはギャオスの脱皮の皮。そのためギャオス自身にはダメージはほとんど入っていない。

脱皮を始めたギャオスの背から新たな翼が現れる。それは先ほどよりも大きく、羽ばたきからでるその風は強くなっていた。

そしてギャオスは脱皮を完了する。

先ほどよりも大きくなったその身体を振るい、咆哮を上げた。

その姿を見た国民はまた恐怖の声をあげる。

ギャオスは翼を広げ、飛び立つと城壁のなかへと入ってしまった。

その巨体によって家屋が潰されていく。


「やはり脱皮前だったか」


ギャオスを前に言うローランは薙刀を構えた。


「ちょっと待って、ローラン。倒すのはまずいわ」


エルマが止めるとローランは納得がいってないような顔をする。


「脱皮した後は早く討伐しないと柔らかくなった鱗もどんどんと硬化していくぞ。それならばここにいる奴らには手が負えない」


「分かってるわ、だけどここで倒すのはまずいのよ」


「さっきみたいに追い返す作戦でいった方が……」


アスベルがそう言った途端何かが猛スピードで風を駆け抜けていき、ギャオスの顔へと当たった。それは砲弾であった。

しかも着弾点で爆発する仕組みのもの。

直径50センチほどのものでそれが見事にギャオスの顔に直撃し、牙を折った。

それはなんと城壁から数十キロメートルも遠く離れた場所から打たれたものだ。

その場所には一つの人影がある。


「的中。まあ牙は折れたし、次は翼を堕とすか」


赤いハット帽を被った鳥人の男が立っている。そしてその者の近くには3体の大砲が置かれていた。

周りには人がおらず、彼一人だけで回している。しかし彼は点火する様子もなく、3つの砲台の後ろから動かない。

しかしその目はしっかりとギャオスを見据えている。


「それじゃあ、打て! 」


彼のその声に反応するかのように大砲から砲弾が打たれた。

その速度は落ちることはなく、ただギャオスに向かっていった。

その砲弾は見事ギャオスの翼に穴を開ける。


「ガァア! 」


「的中。あとは大丈夫だろ」


鳥人が手をあげると3台の大砲が光の粒になって消えていった。


「任せたぜ」


鳥人の弾撃者ガンナーが見る方向には黒髪をなびかせ、走る狐の獣人の姿があった。その足の速度は早く、風のように駆けていく。


「あれか」


狐の獣人は走りながらも刀を抜く。その刀は日の光にあたり、緑色に輝く。


狐の侍はそのままギャオスの脚へと走っていき、その刀を空気を撫でるように横に振る。


ピキッ


に線が書かれる。そのままギャオスの脚は肉を裂き、骨を断たれる。その場所からギャオスの脚は綺麗に斬られたのだ。

切り傷からズルリと身体がずれる。脚は大きな音をたてて真横に倒れる。

脚からは血がタラタラと流れ始めた。


「グオアアア! 」


脚を斬られたためバランスを取れなくなったギャオスの巨体が家屋へと倒れそうになる。 

しかしそれをさせない。

ギャオスが倒れてくるその場所には白い鎧に身を包んだ女性がいた。手には純白の盾をもっている。

女性はその盾を構え、落ちてくるギャオスの巨体に身体を向ける。巨体は目前へと迫っていた。

女性は盾を背中まで回し、思い切り盾を振った。


「たああ! 」


女性は細身であるその身体からは感じられないほどの力をだし、ギャオスを押し返す。

いや違う。盾自身にあたったのではなく、その盾の前にあった透明の魔法の盾がギャオスの巨体を跳ね返したのだ。

ギャオスの身体は再び起き上がり、そしてギャオスの背後に回っていた狐の侍がギャオスの背中をパクリと裂く。


「ギャオア!! 」


「お嬢様! 」


盾をもった聖騎士パラディンが叫ぶ。その方向には足元に魔法陣が輝き、雷を纏った金髪の少女がいた。

杖を片手にもち、目を閉じて集中していたが女性の声によってその目を開く。


「ごめんなさい! 雷光ライトニング! 」


その声と共にギャオスの頭に雷が落ちる。その雷はギャオスの身体を一直線に通り、地面へと流れる。それにより地面も焦げてしまう。

痛みによる咆哮をあげることもなく、代わりに口からは焦げたような匂いのする煙を吐き出し、ギャオスは絶命した。


「ふー、これで大丈夫ですね! 」


少女のその声に人々は歓喜の声をあげた。

そしてギャオスを討伐した彼女達の周りにはそれぞれ集まりだす。

その様子をアスベル達はみていた。


「すごいな、あの人達」


「ああ、脱皮直後とはいえあいつを討伐できるとは」


「もしかしてあいつ等なんじゃない? ギルドマスターが言っていたロードナイツって」


その予想はあたっており、群衆からは「さすがロードナイツ! 」という言葉が聞こえてくる。

周りの人々の歓声を受けながらもロードナイツは警戒しているのか、武器から手をはなさないでいる。


「それにあの様子も並々ならないくらいの実力があるね」


アスベルは彼女達を見ながら言って横を見ると隣にいたローラン、エルマがいなかった。


「あれ? 」


「さっさと降りなさいよ!」


城壁の下からエルマの声がする。覗くとローランとエルマはとっくに城壁の下まで降りていた。


「な、置いていかないでよ! 」


アスベルは焦りながらズルズルと城壁を降りていった。



城壁から降りて人が集まっているところまで行くとフィオラと出会ったアスベル達。


「皆さん、見ていました! 」


興奮気味のフィオラ。


「ギャオスに立ち向かうなんてすごいです! しかも脱皮の皮を剥がさせるなんて」


キラキラとした目で見つめられるアスベル達。その輝きはあまりにもきつかった。


「いや、でも脱皮の皮だけだよ」


「それだけでもすごいんです! そもそもギャオスに立ち向かうことだけでもなかなかできないことなんですよ! 」


さすがです、さすがですと拳をにぎった手を振る。


「ありがとーフィオラー」


困ったような表情をしてアスベルは笑う。それに気付いたのか民衆の一人がアスベル達に気付き、声をあげる。


「おい、あいつらってギャオスを倒そうとした……」


「ああ、なんでもたった三日でAランクにまで上り詰めたという奴らだよな」


「やっぱりちがうな」


一気に周囲は彼女達から離れ、アスベル達の話題へと変わった。


「え、うそでしょ! 」


アスベル達は周囲の反応に耐えながらもギルドへと戻ろうとした。しかし誰かに話しかけられ、入ることができなかった。

その人は先ほどの人々ではなく


「こんにちは」


ギャオスを倒したパーティーの一人の少女だった。

彼女は微笑みを浮かべながらアスベル達に近づいてきた。


「ど、どうも」


戸惑いを隠せないアスベルに少女は困ったような顔をする。


「あ、すいません。いきなり話しかけられて驚きましたよね」


「へ? あ、いえ大丈夫だよ」


あわてて取り繕った笑みで対応するアスベル。

その表情をみて少女は安心したようだった。


「ところで何のようですか? 」


アスベルがそう聞くと少女はまた笑みを浮かべた。


「どうか私達と一緒に来てください! 」

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